[本文]

国・地域名:
米国
元記事の言語:
英語
公開機関:
大統領府
元記事公開日:
2013/07/26
抄訳記事公開日:
2013/10/17

2015年度予算における科学技術優先事項

Memorandum for the Heads of Executive Departments and Agencies

本文:

大統領府行政管理予算局(OMB)と同科学技術政策局(OSTP)の両局長は7月、2015年度の科学技術関連予算の編成方針を示す覚書(M-13-16 ) を発表した。同覚書は、基礎・応用研究は(企業にとっての経済的インセンティブは乏しいが)公共の利益をもたらすという前提のもと、現行予算や大統領の「米国イノベーション戦略」の優先順位を反映しつつ、多省庁にまたがる科学技術分野の優先を決め、2015年度の研究開発関連予算の編成方針を示している。米財政は厳しい状態にあるため、2015年度は引き続き大統領の計画に則り、優先順位の低いプログラムへの投資を減らし、経済や雇用の成長、教育やイノベーション、R&Dに貢献するものへと充てていく。

基本的な方針は以下のとおりである。
・政府は各省庁に対し、「グランド・チャレンジ(=科学技術イノベーションを必要とするような野心的な目標)」の特定、追求を推奨する。
・各省庁は、相互利益や地球規模の問題の解決、そして大規模研究プロジェクトの資金的な重荷を分かち合うため、国際的な科学パートナーシップに配慮する。
・各省庁は、米国の科学技術が世界の最先端であるために、研究設備へのサポートを行う。
・各省庁は、政府の方針に従い、市民による研究結果に対するアクセスをさらに改善する。
・各省庁は、市民が情報アクセスしやすい活動を優先すべきである。

多省庁にわたる優先順位(Multi-agency priorities)
政権は、一省庁のミッションを達成するための単独研究が重要であることを理解している。2015年度予算では、各省庁固有の研究と次に挙げる多省庁間の取り組みとのバランスを配慮して資源を配分することが求められる。以下、具体的な項目をまとめる。

先進製造
現政権はアメリカの製造業再生・改革に注力しており、製造業における最先端技術を振興するプロジェクトを優先すべきである。特に「国家先進製造戦略計画」に示された技術分野(ロボティクス、材料開発、積層造形技術等)を優先し、産官学連携に重点を置くこと。なお、ナノテクR&D、特にナノテク指定構想(Nanotechnology Signature Initiatives; NSIs)で挙げられたナノ製造、太陽エネルギー、ナノエレクトロニクス(超微細電子)、センサー、ナノインフォマティックスとモデリングへの支援は継続して行う。

クリーン・エネルギー
現政権は、米国がクリーン・エネルギー技術で世界をリードし、大気汚染や温室効果ガスの削減、石油への依存を下げるためのR&Dを進め、関連産業で給与と技術力の高い雇用を生み出すことを意図している。従って各省庁は、効率性や持続性の改善、費用対効果の高い代替交通、クリーン・エネルギー製造技術の課題発見、産業・建物・製造におけるエネルギー効率強化、次世代送電網などに資する研究開発への投資を進めるべきである。

気候変動
各省庁は、米国地球変動研究プログラム(USGCRP)の2012-2021年戦略計画に示された目標を達成するための活動を継続すべきである。なかでも、2015年度の優先としては干ばつの因果関係や、北極圏における気候変動の影響と中緯度地方の気候の相互作用などの研究を進めること。また、気候関連のリスクや機会に対する国家としての理解、分析、対応を改善するため、各省庁は緩和(mitigation)や適応(adaptation)の決断をするための科学的根拠を裏付ける活動を進め、災害時のリスク管理に必要なデータやツールの活用を強化すること。

政策形成・管理における科学的裏付けの強化
研究開発以外に主要なミッションを持つ省庁は、健康・安全・環境に関連する政策形成にあたって、科学的基礎を強化する研究開発を優先すべき。中でも政策決定に有効なデータやツールの開発強化、政策の効果的導入に役立つ社会科学・行動科学の研究などが必要となる、また、国家として自然災害や技術災害に対する回復力を高めるため、災害情報を届けるための設備投資、災害軽減のための戦略や技術の開発、重要な独立したインフラの脆弱性を緩和、災害復元力の分析を改善、リスクを加味した行動の推奨などを進める。

情報技術研究開発
各省庁は、ビッグ・データ革命がもたらす課題に取り組み、可能性を開拓すること。また、国家科学技術会議NSTC)の報告書「信頼できるサイバースペース」で示された研究分野を優先させ、サイバー攻撃に対する防御技術を開発し、スペクトラム共有及び効果的利用のための技術の研究を進める。

国防に向けたR&D
国家や国土の安全保障に携わる機関は、将来の危機に対応するための科学技術に投資し、革新的な安全機能を開発すべき。中でもハイパーソニック、大量破壊武器への防衛、先端コンピューター技術、トレーニング、国家安全のためのデータ管理などへの投資や最新機能を開発するための基礎研究、応用研究を進めること。

生物・神経科学でのイノベーション
各省庁は、健康、国家安全、エネルギー、農業など、2012年に発表された国家バイオエコノミー・ブループリント(National Bioeconomy Blueprint)で挙げられた技術のR&D、バイオサーベイランスに関する国家戦略(National Strategy for Biosurveillance)の目標を達成するための科学技術、生物、物理化学、エンジニアリングのインターフェイスとなる研究などへ優先的に投資すること。また、BRAINイニシアティブや神経科学に関するNSTCの多省庁間研究で特定された分野も優先すること。

科学技術工学数学(STEM)教育
各省庁は、現政権が掲げたSTEM教育の再編成と「STEM教育に関する5か年戦略計画」の目標に添う形で2015年度の予算を配分すること。また、プログラムのデザインや導入などには根拠があるものを優先し、結果を評価するための指標を定義することが求められる。なお、STEM教育プログラムの断片化を減少させるため、各省庁はプログラムがエンドユーザーの要望に応えるようなものになるようデザインすること。様々な社会層がSTEMに参加し、体験できるような機会を設け、正確な評価や証拠の積み立てができる機関はSTEM教科の結果が飛躍的に伸びる学習法に関係する科学技術のR&Dへの投資も優先的に行うこと。

イノベーションと商業化
各省庁は、連邦政府のR&D投資が商業化に結び付くよう、報奨制度や初期段階の技術開発への支援、産学連携の強化、スモール・ビジネス革新研究プログラム(SBIR)への投資、大学院教育と官民の人材ニーズとの適正化等を進める。また、それぞれの取り組みは政権の多省庁間優先目標(Cross-Agency Priority Goal)に添い、アントレプレナーやスモール・ビジネスへのサービス・パフォーマンスの向上につながる努力であるべきとする。

[DW編集局]