[本文]

国・地域名:
英国
元記事の言語:
英語
公開機関:
英国財務省
元記事公開日:
2015/11/25
抄訳記事公開日:
2015/12/01

スペンディング・レビューと予算編成方針(2015年秋)

Chancellor George Osborne's Spending Review and Autumn Statement 2015 speech

本文:

英国財務省は2015年11月25日、同日発表されたスペンディング・レビュー(複数年度を対象とした政府全体の予算計画)と予算編成方針(Spending review and autumn statement 2015)に関するジョージ・オズボーン(George Osborne)財務大臣の演説内容全文を公表した。これに伴って発表された記事や資料等も合わせて参照しつつ、主として科学技術・イノベーションに関わる部分を抜粋要約して以下に記す。

歳出削減の努力を継続し財政赤字のさらなる削減努力は維持しつつも、英国経済の安定的成長を確保するべく、今次スペンディング・レビューでは今後5年間に4兆ポンドを拠出することを約束する。単なる切り詰めでなく、改革と再建を伴うやり方で、以下の4点を目標とする。

① 生涯のあらゆる段階で国民を支援する保健制度、社会医療制度の近代化、統合化を図る
② 地方への権限委譲(devolution)による改革及びインフラへの長期的投資を通じて、経済力と富の拡大を図る
③ 長い間英国国民の関心を遠ざけてきた多数の社会的落伍者に正面から対処することで、(これら落伍者の)機会拡大を図る
④ 国内的には国民を防護し対外的には英国の価値を投影するような資源を備えることで、国家安全保障の強化を図る

上記大方針の下、科学技術・イノベーションに関連する具体的施策として次の事項が挙げられている。

● 科学技術への投資
・カタパルト・センター(Innovate UKが所管)の新設に向けて予算を増額する。
・(BIS予算のうち)実質ベースで47億ポンドの資源予算(研究費や人件費に当たる部分)を堅持することにより、科学技術・研究における世界トップレベルの英国の地位を確保する。これには15億ポンドの新規「グローバル・チャレンジ・ファンド(Global Challenges Fund)」が含まれる。またInnovate UKによる企業支援及び航空宇宙・自動車技術に対するファンディングも実額で維持される(政府は航空宇宙・自動車技術に対する10年間のファンディングを約束している。また財務大臣は演説の中で、Innovate UKの支援は助成金でなく貸付金とすることでBIS全体予算の17%大幅削減を補う余地があるとしている)。
・69億ポンドの科学技術インフラへの投資を2015~2021年の長期に亘り実行し、世界トップクラスの英国の研究基盤を支援する。これには英国で強い医学研究をベースに設立される「認知症研究所」に関する公募実施に必要な1億5,000万ポンドが含まれる。
・政府は、7つの研究会議に跨る業務を実行する新組織”Research UK”の導入のための法制化の準備をしている。この組織は、英国の研究にとっての大きな課題と有利な条件に確実に焦点を置いた戦略的な科学技術ファンディング方式の企画・実行において主導権を握る。政府はまた研究基盤と実業界における研究成果の実用化との間の連携強化を目的として、Innovate UKをResearch UKに統合することも考えている。
・医療研究開発に50億ポンド強を投資する(「持続可能な保健・社会医療制度」施策の一環で)。
・環境・食糧・農林省(DEFRA)の科学技術施設に1億3,000万ポンド強の資本を投資する。

● 教育、技能研修への投資
・科学・技術・工学・数学(STEM)科目を専門とする教師を新たに獲得するため、2019~2020年までに13億ポンド強を投資する。
・2020年までに300万件の高度実習制度が開始される。大手の雇用者に対しては2017年4月から実習税が課せられる。税率は雇用者の請求額の0.5%であるが、オフセットが設定されているので、実際に税を支払うのは英国の雇用者の2%弱である。
・政府は中核的成人技能養成(core adult skills participation)予算に対するファンディングを実額で15億ポンド堅持する。また5つの国立大学(National Colleges)を創設し、全国の工科大学の新たなネットワークを支援する。これらの大学は情報技術や高速鉄道など中心的な産業界で2020年までに約2万1,000名の学生を教育する。
・政府は、定時制の高等教育学生向けの修学維持費貸付、継続教育におけるさらなる高度技能取得のための授業料貸付、修士課程大学院生向けの新規貸付を通して、新たな資金支援を提供する。

● インフラへの投資
・運輸投資を50%増やし、610億ポンドとする。これには”High Speed 2″の建設開始、「道路投資戦略」に対する134億ポンドの支出、道路保守に対する50億ポンド強の支出が含まれる。
・最重要インフラであるエネルギーの研究への支出を倍増し、たとえば、小型モジュラー炉の研究開発に注力する。

● ビジネス・イノベーション・技能省(BIS)の歳出枠

今次スペンディング・レビューでは各省が管理する予算の今後数年の歳出枠(Departmental Expenditure Limit: DEL)が示されている。科学技術・イノベーションを所掌するBISの歳出枠は次のとおりである。

2015~2016年度 166億ポンド(基準値)
2016~2017年度 165
2017~2018年度 165
2018~2019年度 134
2019~2020年度 132

2019~2020年度時点での節減額は全体で24億ポンド(原文ママ)となっているが、これは次のような努力により達成されるものである。

・高等教育修学維持費の助成金から貸付金への切り替え
・エネルギー集約型産業を(現金報酬を支払わないで)再生可能政策(環境料金)のコストの適用外とする
・学生へのアクセスに関しては大学側により責任を持たせる
・成人の技能養成において効率化と節減により3億6,000万ポンドを発掘

[DW編集局]