[本文]

国・地域名:
米国
元記事の言語:
英語
公開機関:
大統領府科学技術政策局(OSTP)
元記事公開日:
2017/01/05
抄訳記事公開日:
2017/02/08

オバマ政権下のホワイトハウス科学技術政策局(OSTP)、 退陣に当たってのメモを発表

OSTP Exit Memo: A Progress Report on America’s Science, Technology, and Innovation Enterprise

本文:

2017年1月5日付でオバマ大統領府の科学技術政策局(OSTP)は退陣に当たって、これまで取り組んできた科学・技術・イノベーションに関する進捗の記録をメモとして発表した。これには20項目に及ぶ科学技術の最先端領域が示され、またこれらの先端領域でのイノベーションを継続して促進するために必要な10項目の施策が示されている。概要は以下のとおり。

●オバマ政権が実施した主要な科学・技術・イノベーション政策

・行政機関の科学・技術・イノベーション能力の向上(ホワイトハウスや連邦省庁において新たに科学技術を主導する職位を創設・強化すること等による)
・科学の健全性の強化(国民が科学や科学的プロセスを信頼できるようにするための政策の策定・実施)
・法制化による研究・開発の歴史的な増強策(研究開発ファンディングに183億ドルを用意した2009年2月の米国復興・再投資法では、研究開発ファンディングの年間増加額が米国の歴史上最大となり、財政上の厳しい制約にも関わらず研究開発ファンディングの優先度を維持した)
・STEM教育と技術セクターへの広範な参入を優先的に促進
・米国の製造業イノベーションを支援
・起業機会を全米に拡大(女性やマイノリティなど)
・医療の進歩を図るべく主要な新規の科学イニシアティブを立ち上げ(精密医療、脳の解明、がんの予防・治療の発展を加速、抗菌剤耐性対策)
・気候変動への対処というこれまでなかった施策への着手
・ブロードバンド・アクセスの拡大
・民間宇宙セクター成長の助長・育成、および火星旅行の能力向上策

●科学技術の最先端領域(20領域)

[個人に関わる領域]
1) 精密医療(precision medicine)の展開
2) ニューロサイエンス・ニューロテクノロジーへの投資
3) 抗菌剤耐性対策
4) バイオテクノロジーの発展と世界保健安全保障

[地域に関わる領域]
5) スマート社会の構築とモノのインターネット
6) イノベーションとデータを活用した警察活動および刑事司法制度の改善
7) 市民科学者等による問題解決のアイデアの活用
8) ブロードバンドの配備やインターネット無線アクセス帯域を通じた米国民のコネクティビティ強化

[国家に関わる領域]
9) 人工知能(AI)、機械学習、ビッグデータの潜在能力の把握
10) ロボット技術、インテリジェント・システムの開発
11) 戦略的コンピューティングへの投資
12) 先進製造技術と「製造業国家」の支援

[世界に関わる領域]
13) 気候に関する科学、情報、ツール、およびサービスの進展
14) クリーン・エネルギー経済の成長
15) 気候変動・国家安全保障に対する取り組み
16) 海洋のレジリエンスの向上

[惑星間に関する領域]
17) 火星旅行および米国の確固たる商用宇宙市場の支援
18) 宇宙科学の進歩を牽引
19) 宇宙災害の予測と備えの強化
20) 小型衛星革命の活用

●先端領域におけるイノベーション継続の促進に必要な10項目の施策

・基礎的研究への投資
民間セクターが必要な投資をするに十分な経済的インセンティブを持ち得ない領域の社会的ニーズに対処するには、研究開発に対する連邦政府のファンディングが不可欠である。その中でも重要なのが基礎研究である。全般的に財政上の制約に直面する中で連邦政府の研究開発予算の堅守・拡大という課題の中でも、基礎研究(およびそれを可能にするインフラ)の支援という課題は今後数年間において特に注意を要する課題である。投資の回収時期やその規模に高いリスクや不確実性があり、民間セクターが貢献するには限界があるので、基礎研究に対しては連邦政府が最大の負担する必要がある。しかしながら研究の単なる支援では不十分で、連邦省庁は研究成果を他の研究者、国民、イノベータの利用に供することで国民の生活向上に資する事業や製品に転換できるようにする必要がある。

・連邦政府におけるトップクラスの科学技術人材の採用、継続活用、権限の付与
オバマ大統領のイノベーション政策の中核的な要素は、より効果的、効率的、革新的な政府の構築に資することのできる個人を政府に引き寄せる取り組みであった。

・主要な挑戦課題の特定と追求
オバマ大統領はそのイノベーション戦略の重要要素として、主要な挑戦課題の特定・追求に企業、研究大学、財団、慈善事業者の参画を求めた。主要挑戦課題は野心的な目標ではあるが、科学技術の活用により達成可能な目標でもある。

・質の高いSTEM教育の機会増進と教育イノベーションの推進
STEM分野の機会増進・参加増進は米国のイノベーション促進に必要な人材の開発に不可欠である。より多くの米国人が報酬の高いSTEM分野で成功を収められるようにし、市民の見識拡大を支援することで、経済的不平等や性による給与格差を是正する。

・多様性・公平性・一体性の向上、偏見による悪影響の軽減
科学・イノベーションにおける世界のリーダーとしての米国の役割は、米国の基礎的な能力の一つ(米国民の無類の多様性およびそれが生み出す多様なアイデア)を活用することで強化されている。

・イノベーション起業の支援
米国の起業家精神に基づく経済は世界の羨望の的である。新興企業が新規雇用の約30%を占め、最悪の経済危機からも回復している。新興企業は2010年の初め以降の民間セクターによる1,550万件の雇用創出に寄与している。米国のあらゆる起業家が直接成功を収められるように、政府は総力を挙げて支援する必要がある。

・連邦政府のデータおよび連邦政府のファンディングによる研究開発の成果から経済・社会へのリターンの最大化
オバマ政権は省庁ミッションの支援にデータ・イノベーション関係者を関与させるなど、連邦省庁・プログラムの広報・支援にオープンデータとデータ・サイエンスを活用した。

・連邦省庁のイノベーション能力の向上
人材、イノベーション思考、技術的手段を適切に組み合わせることができれば、政府はより成果をあげることができる。そういう理由で省庁の科学技術・イノベーション能力は戦略的優先課題である。

・透明性、参加、協力を通じたオープン・ガバメントの推進
連邦政府の横断的なチームによる作業で、透明性の向上、市民権の拡大、連邦政府と米国民との関与方式の改革などに進展が見られる。

・科学技術における国際協力や国際的取り組みの継続
OSTPは2国間または多国間協定を通じて米国と国際的なパートナーとの間の国際的な科学・技術・イノベーションにおける協力の強化を図っている。

[DW編集局+JSTワシントン事務所]