[本文]
-
- 国・地域名:
- フランス
- 元記事の言語:
- フランス語
- 公開機関:
- 科学技術観測所(OST)
- 元記事公開日:
- 2013/10/01
- 抄訳記事公開日:
- 2013/12/04
-
独・西・仏・伊・英: 科学技術遂行能力の多元的分析
- 本文:
-
科学技術観測所(OST)は先ごろ標記報告書を公表した。以下にその構成内容と特に結論部分を抜粋要約して記す。
[構成内容]
・研究開発の資金支援と実行: 各国間の顕著な差異
・科学生産力: 活力、奪回力、影響力の上昇
・技術生産力: 活力はあるが、世界に占める割合が減少
・研究開発支出、科学生産力、技術生産力: イノベーションの多様な側面間の関係
・質的指標で細分化して見た各種研究開発活動の特徴[結論]
本調査の目的は、欧州5大国の研究開発活動の現状を図式化し、その類似点と相違点を明確にすることであった。以下は本調査から得られた知見の概要である。
本調査から主として2つのことが確認できる。1つは、EU危機説にもかかわらず調査対象の諸国は依然として科学技術とりわけその生産の質において重要な担い手であること。もう1つは、欧州共同体の政策にもかかわらず、あるいはその政策のお陰かもしれないが、科学技術領域におけるこれら各国の活力には大きな差異があること。
本分析から生じる第1の疑問は、欧州の上位3大国が科学技術において今後もその先進性を維持する能力に関する疑問である。分析対象の指標から見てドイツの場合は今のところリスクは限定的であるとしても、一方でそれ以外の国が研究・技術の分野での成功で次第に力をつけてきており、問題は3カ国いずれの国にも及ぶ。特に3つの分析対象領域(国内研究開発支出、発表論文数、特許)でどのようにして地位を維持するか。戦略方針は各国とも同様のレベルだとすると、実行手段が国家的特徴として考えられる。
ドイツでは公的資金支援が低調であることで、科学生産力の低下や影響力の低下を引き起こさないか。英国では外国からの資金支援の割合が大きいことから、国の創造能力低下を招かないか。フランスでは国内研究開発支出への企業の関与が増えているが、これは国がそれだけ手を引いた反動か、それとも持続可能な投資構造の兆候か。
今後の分析に向けた手がかりを探ることもできる。まず第1に標記5カ国の研究開発活動状況の全体像を把握する目的で、材料科学、生命科学の全分野、技術の全領域を合わせて敢えて分析の対象とした。しかしながらこれらの諸国間では分野や専門領域の違いが大きく、本調査は特定の専門分野に対応した部分的なものであることを物語っている。各国の専門領域について分野別分析をすることで、本調査の結果はより洗練されたものになる。
調査対象各国の科学・技術遂行能力は国の規模に関連した影響を受けていると考えられる。また科学・技術生産力は部分的には研究開発投資額に関係がある。しかしながらこの関係は必ずしも直線的ではなく、使われる指標によっても異なる。特に研究開発投資の認可額を見ると、イタリアは他の国よりかなり優位な地位を占めていることが分かる。研究開発支出と特許生産量との関係は30年前から経済学者らの調査対象として大きく取り上げられているが、同時に国の規模とその科学技術活動とりわけ影響力の点を考慮に入れた調査をすると、興味深い結果が得られると思われる。
各国はイノベーションに対してそれぞれの文化と感受性を備えている。イノベーションは数十年前からドイツ文化の一部をなしており、最近は他の国でも関心事となっている。民間研究開発はほとんどドイツ企業の自己資金で行われており、ドイツ企業はイノベーションを重要な戦略課題と考えており、それに対する資金投入の備えをしている。忘れてならないのは、この国の企業、特に中小企業の財務構造が、独自の基金に基づいて、自らの研究開発支出に対してより大きな資金投入を可能にしていることである。一方でドイツでは「研究費税額控除」は未だに存在しない。調査対象各国の企業の研究開発の資金源の調査を行うと、研究開発に対する挙動の違いをより深く分析できると考えられる。
[DW編集局+JSTパリ事務所]