[本文]

国・地域名:
フランス
元記事の言語:
フランス語
公開機関:
議会科学技術評価局(OPECST)
元記事公開日:
2014/01/22
抄訳記事公開日:
2014/04/14

遺伝学の進歩で的確な医療を目指せるか、個別化医療の科学的・技術的・社会的・倫理的課題

Les progrès de la génétique : vers une médecine de précision ? Les enjeux scientifiques, technologiques, sociaux et éthiques de la médecine personnalisée

本文:

議会科学技術評価局(OPECST)は2014年1月22日標記報告書を公表した。その中から結論および提言を記した部分を以下に抜粋要約して記す。

個別化医療は従来の医療の概念を激変させるものである。今後の医療制度の変革にかなりの影響を及ぼすパラダイムの変化をもたらす。遅滞なくその準備をしなければならない。正に社会的変革を誘発するこの新しい医療方式には、医療に関する教育政策が伴う必要があり、市民が内容を理解しその恩恵と制約を認識できるような公開の議論が必要になる。

この新しい患者の診療方式には、それが個人に適用され単一の個人を医療制度の中核に置くという点に利点がある。それでも大部分をある種の「人の透明性」に基盤を置く個別化医療では、非人間化、またある意味では非個人化がすぐに生じる可能性がある。全てが見えて測定できて、したがって全てが予測、発見、予告、処理、代替可能な技術的手段に依存して、診療を実行するからである。

ゲノム解析・プロテオーム解析研究および分子生物学の領域での科学的進歩はすでに大きいとしても、越えるべき障壁が数多く残っている。医師や科学者が応えるべき重要な課題は、どんな遺伝子またはどんな生物学的メカニズムが患者のどんな病気の進展に関係するかを知る能力、またそのような知識を予防や治療の戦略に変える可能性に関するものである。疾病の解析や分類はゲノム解析による知識の進展と整合性を持つ必要がある。

特定の同一・唯一の疾患に対して今日充てられている症状や臨床データは、全体として、事実上様々な遺伝子の変化の結果であることが明らかになる可能性がある。その場合治療方法も多様化することになる。

疾患の遺伝子・分子的側面に対応した新たな分類が、特にがんに関して、我々の医療制度にとって大きな転機と挑戦になり、その組織的・経済的影響に対する不安が生じる。新しい治療法がごく特定の偏った範囲に留まっていても、医療制度の5、10、30%と徐々に関与を拡げるようになっても、それによって我々の関連の公衆衛生制度には多かれ少なかれかなりの混乱が生じることになる。現在のところ、このイノベーションに関与しているのはまだごく少数の患者であること、標的治療法で治癒できるがんはごく稀でしかないことを忘れてはならない。存命中に試験的治療や標的治療を実際に受けているのはフランスの患者の5%未満である。

新たに不治の疾患に取り組む主要な当事者、新たな職業として、ゲノム生物学者やバイオインフォマティクス学者が必要不可欠であることが明らかになっている。ゲノム解析の多様な結果を、医師に対して見える形で分かりやすく解釈しやすく示すためである。同じ細胞内に蓄積された遺伝子や分子の異常に応じてどんな医薬を使用すべきかを誰かが説明しなければ、医師はゲノム解析の結果を単独では解釈できない。学際チームでの作業に向けた医学研究のこのような変革の必要性は長い間強調されてきた。

この技術の展開を図り、臨床データのデータ集や標準的解釈を保証する目的で、遺伝子データや個人の医療記録の管理規準を定める必要がある。また個人を特定するデータへのアクセスの安全性やその保護も、倫理・社会面だけでなく経済面でも重要な課題である。科学界、医学界以外での活用において、このようなデータを保護する目的の国際的な手段の策定や適用にフランスが積極的に参画することが重要である。

個別化医療が予防と治療の領域を変革し今後も変革することは間違いない。がん医学の外でも病気が何であろうと、患者の代謝機構に合った処方をすることで、予防的な効果をもつ治療にますます活用されることになる。「医療に関する国家戦略」や「イノベーション2030」委員会報告で推奨しているように、個別化医療で患者を予防・治療方策の中心に位置づけるとすれば、医療に関わる人の数や専門性が向上し、患者自身だけでなくその家族に関する情報も増えることになる。

フランスは多くの国が羨む程の中央集中型の医療制度を備えている。分子遺伝情報に関する共通基盤も全国各地にあり、すべての人に無料で対等なアクセスを提供している。しかし養成された人材、分析ツール、計算・蓄積機能の面で情報処理レベルに大きな難点を抱えており、大きな投資努力を必要としている。欧州および国際的な活動への参画機会を増やすことは、わが国(フランス)の利益になる。とりわけ稀な病気やがんに関して達成すべき進歩について、国際協力はそれを加速する要素となる。

[提言]
大きく次の8項目の提言が示されている。

・疾病と治療の研究において個別化医療が誘発するパラダイムの変化に対応するフランスの体制を整えること
・研究・開発の振興を図ること
・医療人材育成の強化を図ること
・標的治療の展開を支援すること
・遺伝子検査の予防的価値について周知を図ること
・すべての市民に対して新たな治療法の対等な利用を保障すること
・個人の医療データの保護を図ること
・個別化医療に関して市民への情報提供を確保すること

[DW編集局+JSTパリ事務所]