[本文]

国・地域名:
米国
元記事の言語:
英語
公開機関:
米国科学振興協会(AAAS)
元記事公開日:
2015/01/28
抄訳記事公開日:
2015/03/11

ビッグデータと人権: 新しい関係であるが、場合によっては厄介な関係

Big Data and Human Rights, a New and Sometimes Awkward Relationship

本文:

2015年1月28日付の米国科学振興協会(AAAS)の記事によれば、膨大な量のデータを収集して解析する技術は、人権侵害を暴くという刺激的な可能性がある一方で、他の人権を侵害する可能性もある。AAAS科学と人権連合(AAAS Science and Human Rights Coalition)では今後の進むべき道を探った。

最近の会議で専門家らはビッグデータの技術により性目的の児童売買などの人権侵害を明らかにし立証できるとする一方で、これら専門家も聴衆もプライバシー、表現の自由、その他の人権に対する影響を懸念している。

「ビッグデータ」は通常、膨大な量のデータの収集、保存、分析を指す。新しいタイプのデジタル・データ源は多数存在するが、人々がインターネットやモバイル端末を使用すると、意図的か否かに関わらず、「バルク」(大量データ)が形成される。

2014年のホワイトハウス報告によれば、毎日5億件を超える写真がアップロード・共有され、毎分200時間分を超える動画が共有されている。また人々がデジタル的に買い物をしたり、閲覧したり、対話したりするたびに、「データ排出」や「デジタル・パンくず」の痕跡を残している。このような情報が収集、保存、分析されて、しばらくするとマーケティングやその他(科学的研究を含む)の用途に販売される。

上記ホワイトハウス報告では、「適切に利用されれば、ビッグデータの解析により経済生産性が増し、顧客サービスや政府のサービスが向上し、テロを食い止め、生命を守ることが可能である。ただしそのような利益は、これらの技術がもたらす社会的・倫理的問題に対して均衡を保つ必要がある」と述べている。

AAASの会議での議論の中心は上記の二律背反性にあるが、一部には所有権やデータの帰属に関する問題提議もある。会議での主な発言には次のものがある。

・携帯電話、保険、クレジットカード等の会社が顧客から集める個人情報は営業目的だけでなく利他的にも使用可能であるが、「データによる慈善活動」は初期段階では成り立たない。発展途上国、特に政治的に不安定で部族間紛争の歴史を有する地域では、ビッグデータ分析プロジェクトで彼らが享受する利益は個人情報提供のリスクと天秤にかける必要がある。
・ソーシャル・メディア企業とのデータ共有では、さらなる透明性、個人情報データがどのように使われているかが十分把握できることを望む。
・最も基本的な人権は危害を構成する対象に介入できることである。市民は自分たちのデータの使用方法についてもっと大きな発言の機会を有する必要がある。
・比較的安定した先進国においても、ビッグデータ技術は差別や操作に利用される可能性がある。データ収集自体が、自己表現や自由な発想に萎縮効果をもたらす可能性がある。
・上記以外に、人権を直接的に支援する方法でビッグデータを活用するプロジェクトの例がいくつか紹介されているが、彼らも慎重な対応の必要性は意識している。
・もう一つの複雑な問題として「承諾(Consent)」の問題がある。データ科学は公共の福祉目的に活用されるとしても、特定情報の広範囲にわたる流通はインフォームド・コンセント(説明を受けての承諾)に間違いなく影響がある(たとえば、個人が特定目的のデータ収集に同意したとしても、その時点では将来の別の利用方法には関知していない可能性がある)。

[DW編集局+JSTワシントン事務所]