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- 国・地域名:
- ドイツ
- 元記事の言語:
- ドイツ語
- 公開機関:
- フラウンホーファー協会 システム・イノベーション研究所(ISI)
- 元記事公開日:
- 2015/04/29
- 抄訳記事公開日:
- 2015/05/25
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BW州が電気自動車で後れを取る危機
- 本文:
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フラウンホーファー・システム・イノベーション研究所ISIはその研究「世界の電気自動車:バーデン・ヴュルッテンベルクの国際比較」において電気自動車の世界的な主要地域を比較した。これに関してISIは概略下記のような報道発表を行った。
バーデン・ヴュルッテンベルク(BW)州はダイムラー、ポルシェ、アウディ等優秀な自動車メーカーが工場を構える世界有数の自動車製造地域である。しかし、同州の自動車産業がその産業の重大な変化に対応していかなければ、将来この優位性が変わる可能性がある。化石燃料の有限性、環境意識の高まり、モビリティビヘイビアの変化、代替電気等によって、ハイブリッドおよび燃料電池等のエンジンおよび電気自動車が総合的に益々重要となってくる。
将来ともBW州の自動車産業が国際的にトップの位置を保持するためには、長期的にどのように変化しなければならないかを明らかにするため、ISIは「世界の電気自動車:バーデン・ヴュルッテンベルク州の国際比較」と題する研究を実施した。電気自動車の領域で主要な地域であるカリフォルニア、パリ、東京、ソウル等9地域の総合的な分析及びBW州の詳細な分析を基に同州の長所および短所について検討した。ISIはこうして得た知識をベースに、如何にして持続可能なモビリティに向けた変革を成功させることができるのかという行動勧告を導き出した。
調査対象地域間の大きな違い
ISIの研究プロジェクト担当者であるモル氏は個々の地域間の大きな違いを指摘し、「我々の調査結果は、BW州が現在のところ電気自動車数あるいは電気技術、また電気自動車の利用においてもトップグループには含まれないということを示している。供給面では日本の愛知及び東京、更には韓国のソウルがトップである」と語っている。例えば日本は電気自動車及びハイブリッド車の製造では世界的な技術標準となっているのに対し、ソウルは電池開発及び製造で確固とした専門性有している。これに対してカルフォルニアは特に電気自動車の応用において大きく他を引き離しており、充電のインフラも整備されており、電気自動車の登録数も多い。上記の技術トップ国に比べ、仮にBW州が今後も旧来の自動車技術にその重点を置くならば追いつくことが不可能となる遅れを生じる恐れがある。モルは、将にバッテリーおよび燃料電池技術の研究及び生産においてはっきりとした弱点が存在しているとし、「BW州にはリチウムイオン電池の製造を行う大量生産型の製造キャパシティが存在していない。正にこうしたコンポーネントが最高のイノベーションポテンシャルを有し最高の付加価値が見込まれるという背景から、今回の調査結果は極めて重要と格付けされる」と述べている。また、自動車産業の大企業の待ちの姿勢が全体として電気自動車の開発を弱めており、技術開発をリードする会社が少なく、重要なキー・コンポーネントの開発における中小企業との協力も十分ではないため、結果として数多くの中小企業が国際的な競争についていけないとしている。
電気自動車への転換に関するBW州の良好な基盤
他方BW州は自動車産業においてサプライヤー及びイノベーションのネットワークが確立されており、更に優れた研究機関が存在している。優秀な従業員の供給源となる確固とした教育インフラ並びに大きな自動車メーカーのシステムインテクレーションのためのコンペテンス等は同州が電気自動車に向けての技術的変革を進めるにあたっての良好な基盤となりえる。ISIの科学者達はBW州の自動車産業の関係者に対して、電気自動車領域におけるイノベーション・プロジェクトを付加価値連鎖に添って方向付けを行い、中小企業を研究及びイノベーションにより強く取り込み、中小企業、大企業、研究機関等全ての関係者間における技術及び知識の移転を改善するよう勧告している。一つの肯定的な例としては「南西電気自動車クラスター」の枠組みの中で生まれたイノベーション・ネットワーク構築に関する活動が挙げられる。BW州を自動車拠点として確保するために、長期的戦略を立て、世界の他地域における技術先進国と共同で国際的イノベーション・プロジェクトを開始してドイツの学習ポテンシャルを発揮すべきである。
バッテリーや燃料電池等の新しい技術の生産キャパシティを構築するためには、BW州の自動車産業において公的な研究助成とならび民間による大きな投資も必要である。それらがなされた時に、大規模生産の一環として、電気自動車の需要増が確保される。さもなければバーデン・ヴュルッテンベルク州は更なる後退が危惧されることとなり、これを取り返すためには困難が予想され大きな財政的負担が必要となる。
[DW編集局]