[本文]

国・地域名:
英国
元記事の言語:
英語
公開機関:
英国宇宙庁
元記事公開日:
2015/07/06
抄訳記事公開日:
2015/08/27

宇宙環境の研究と有人宇宙飛行: 英国の構想

UK vision: research in space environments and human spaceflight

本文:

英国宇宙庁は2015年7月6日付で宇宙環境と有人宇宙飛行に関する国家戦略を発表した。その中から構想、目標、実行方策についての記述を抜粋要約して以下に記す。

1. ビジョン

・英国は、低地球軌道においても、擬似プラットフォームにおいても、深宇宙探査においても、有人宇宙飛行及び宇宙環境研究における知名度と評価の高い参加国となる。
・成長への道筋として科学的知識と技術的能力の向上を図ることで、英国経済を積極的に拡大し、医療、通信、教育などの分野において多大な社会的利益をもたらす。

2. 目標

・英国の優先順位に沿った高度な科学技術の実現を図る
・有人宇宙飛行に対する一般市民の強い関心と熱意を引き出すための教育を実施する
・このようなプラットフォームの学際的性格を活用して、新たな共同研究の展開を図る
・英国産業界のために請負受注を獲得し、英国への新規投資を引き寄せる
・今後有望な商用有人宇宙飛行に関する国内準備を支援する

3. 実行方策

・英国宇宙プログラムの多くは、広範囲のパートナーとの協力の下に実行される。英国宇宙庁の役割は主として、宇宙インフラへのアクセスに関してファンディングを行うことである。その後の運用は他の機関の責務である。例えば、英国宇宙庁は打ち上げコストや科学実験用のペイロード開発のファンディングは行えるが、実験がもたらすデータの活用については研究ファンディング機関(研究会議など)がファンディングを実施する。宇宙環境研究に関わる状況はもう少し複雑で、広範囲の施設が関わり、各国の多種多様なファンディング機関(各々独自の政策を有する)との相互調整が必要とされる。

・宇宙環境及び有人宇宙飛行研究は分野横断的な性格であるため、多くの機関が利害関係を有する。英国宇宙庁は多様な利害関係者間の調整を効果的に行わなくてはならない。様々な国のファンディング機関に責任が分担されているので、英国宇宙庁と他の機関との間で継続的なコミュニケーションが必要になる。英国宇宙庁は研究会議の既存の研究優先順位に従うのが効果的である。

・宇宙及び擬似宇宙へのアクセス
英国はこれらのプログラムを単独で実行する能力を持っておらず、必要なインフラを開発するには実現不可能なレベルの投資が必要になる。宇宙へのアクセス提供という英国宇宙庁の主要な任務を果たすためには、現実的に次の3つのルートがある。

① 他国との2国間ミッションまたは実験キャンペーン
② 商用プラットフォーム(地上、軌道外、低地球軌道)での能力調達
③ ESAプログラムへの参加

・オプション①は相手方の既存の施設を比較的速く利用できるメリットがある。しかしコストがかかる上に、対等でない関係に陥る可能性がある。英国はインフラを持たないので、必然的に従属的パートナーになり、他国の気まぐれに振り回されることになる。他に比べて信頼できる相手国もあるが、常に危険な要素を孕んでいる。中国との協力や、ISSでのNASA主導のイニシアチブに対する分担などの例がある。それに伴うリスク要素は高く、自信を持って長期戦略を立てることができないため、このルートだけを追求するには難点がある。

・オプション②は、大きな進歩はあるものの、未だ初期段階にある。宇宙ツーリズム産業は単なるツーリスト・フライトを超えて科学ペイロードのサービスも提供する多様化の必要性を認識している。プロバイダーとの直接交渉による放物線飛行やベッド・レスト施設などの施設利用のファンディングは、他の欧州諸国がESAプログラムへの参加と並行してすでに実施しているルートである。しかし英国では今なお需要の確認は難しく、そのような投資を全面的に活用することに科学界は準備もなければ関心もないという深刻なリスクがある。さらには、そうした施設を英国はほとんど所有しておらず、また、英国内にもほとんどないため、ルート②を追求するようなやり方は英国産業を直接支援することにはならないであろう。したがって、需要がそれを必要とする時期が到来するまでこのやり方の追求はしない。

・オプション③は、英国の投資にとって最小のリスクで最大の見返りがあるやり方である。ESAプログラムに参画することで、英国はその方針や優先順位の決定に関与する場を与えられ、英国産業への一定レベルの投資の見返りが確保される。また、(個別に調達すれば莫大な費用がかかる)あらゆる範囲の施設利用にも道が開かれることになる。英国研究者は、既存のファンディングによる共同研究において海外の研究者と合流し、欧州の今後の研究方針を定めるESAのテーマ別チームの中でより強力な役割を果たすことができる。

以上を要約すると、英国はオプション③を追求することになり、オプション①に関しては今なお検討中ということになる。

・国際宇宙ステーション(ISS)が今後数10年以内に運用を停止することは避けられない。英国宇宙庁はこの点に関し、国家レベルの要求事項を積極的に協議し、ポストISSのシナリオの詳細を検討する。特に上記オプション②及び生命科学・物理科学における実験を実施する小型衛星の能力について全面的な評価を実施する必要がある。

[DW編集局]