[本文]

国・地域名:
米国
元記事の言語:
英語
公開機関:
米国科学振興協会(AAAS)
元記事公開日:
2016/04/19
抄訳記事公開日:
2016/06/08

NSF研究に国益への合致を求める法案に警鐘

AAAS CEO Holt and Others Challenge ‘National Interest’ Bill on NSF Research

本文:

2016年4月19日付の米国科学振興協会(AAAS)による「国益に合致する科学研究」法案(Scientific Research in the National Interest Act)に関する記事の概要は以下の通りである。

下院科学宇宙技術委員会(ラマー・スミス委員長、共和党テキサス州選出)が提案して2月に下院を通過した「国益に合致する科学研究」法案(法案第3293号)について、スミス氏は、研究者に研究の潜在的価値をよりよく説明する機会を与え、税金でファンディングされる研究に対する透明性を高めるものであると主張している。

これに対してAAASのホルトCEOは、NSFの助成金を獲得するために「国益」評価をクリアする事を義務付ける法案は、「当初は好奇心に駆られて着手し一見難解で公益のためにはなりそうには無いが終局的には人類の生活の質を前進させるような研究」の妨げになると反論し、政策専門家や政治家を含む複数の人間達による反論に加わった。

法案に批判的な立場の意見は、「法案によって審査の段階を増やす事により直ちに応用する事が難しい研究」など、NSFのミッションの核となって来た基礎研究を阻害しかねないというものである。ホルト氏は、社会に貢献してきた社会科学、物理科学、環境科学並びに数学の膨大な研究の大半は、厳密な「国益」審査をクリアできなかったであろうとしている。

もし過去の研究助成金で「国益」の研究のみを支援していたならば、果たして、発光するクラゲの研究が2008年のノーベル化学賞をもたらしたような医学的進歩はありえただろうか? また、グーグルの創始者達が、ウエブページのランク付けのためのアルゴリズムに関する好奇心を追究するためにNSF助成金を活用していたであろうか?更に「国益」のみに焦点を当てた助成金は、多国間を繋ぎ共有される問題に対して多数の異なる視点を持ち寄る事により新しい発想が刺激される国際共同研究を失望させかねない。

下院科学技術委員会の元委員長のBoehlert氏は、法案は曖昧さを残す事により、事実上漠然とした脅威を盛り込んでおり、議会はNSFに判断を委ねてNSFが尻込みして対決を回避するのを願っているのではないかとしている。又、スミス議員のパネルの一人でテキサス州選出のJohnson民主党議員は「科学の推進、国民の健康・繁栄・福祉の前進、国防の確保、その他」はNSFのミッションであって各研究の評価プロセスで適用されるので、議会によって義務付けられた「国益」評価基準による正当性を要求する事は基礎研究の機能の仕方とは対極にある。

最後にホルト氏はNSFの助成金を得た科学者が最近検出に成功した重力波の例に言及し、このLIGOチームの発見の実用的な応用は現時点では不明である。重力波は、大陸間の音声データを安全に運ぶ事は出来ないし、ヒトの医療用画像をより鮮明にする事も無い。ブラックホールの衝突が誰かの電力メータに電力を供給する訳でも無い。しかしアインシュタインの考えは我々の自然界に対する理解を深めるに当たって多大な方向性を与えた。スミス氏の法案は数百万の雇用を生むサイバーセキュリティ、新エネルギー源の発見および新先端材料に重点をおいているが、長期的基礎的科学研究の本当の価値を見過ごしていると指摘している。

[DW編集局+JSTワシントン事務所]