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国・地域名:
英国
元記事の言語:
英語
公開機関:
ビジネス・イノベーション・技能省(BIS)
元記事公開日:
2016/06/30
抄訳記事公開日:
2016/08/25

大学・科学担当大臣の講演:グローバル・サイエンスの時代に世界を主導する

Leading the world in the new age of global science

本文:

ビジネス・イノベーション・技能省(BIS)(当時)の2016年6月30日付発表では、同日行われたジョー・ジョンソン(Jo Johnson)大学・科学担当大臣のウェルカム・トラストにおける講演内容を伝えている。概要は以下のとおり。

政府は議会に提出済みの重要法案の処理を継続して進めている。高等教育・研究法案が議会を通過した後に備えて、知識経済としての英国の強みを支えているものは何か、また将来においてそれらを確保するためにとるべき手段は何かについて考察する必要がある。

まず、国民投票の結果が英国の研究・イノベーションに与える意味について考える。先日の国民投票以来、人々の頭から離れない多くの疑問があることは承知している。学術界や産業界は国民投票のキャンペーン期間中に声を大にして「残留」を主張した。結果は期待とは逆になったが、英国民が下したこの重要な決定を受け入れ、それが機能するように取り組む。英国経済は基本的に好調で、英国の研究・イノベーションは世界をリードしていることを再認識するよい機会である。今後の交渉においては、高等教育・研究・イノベーションを可能なかぎり強力にできるよう努力することを約束する。

研究それ自体がますます共同研究を必要としグローバル化しつつある時代にあって、Brexitにより新たな問題が課せられることは避けられない。今やるべきことは、全領域にわたる科学的能力を有する国としての英国の地位を守るべく進路を定めることである。以下に示すとおり、英国はその拠り所とすべき本質的な強味を幾つか有している。

・長年に亘り確立された支援制度
この支援制度により、研究キャリアのあらゆる段階にいる優秀な頭脳を引き寄せている。卓越した研究であれば、どこに由来する研究であってもファンディングを行っている。しかも科学的な重要課題に取り組むための自由が確保されている。人材供給の重要性も認識しており、次世代の研究者育成のためにできることは全てやろうとしている。このほど新たに修士貸付(Master’s Loan)の公募を開始した。また既存の研究会議によるファンディングを補完する目的で新たな博士貸付(Doctoral Loan)を初めて展開しようとしている。

・英国の卓越した科学インフラ
英国には、大学、既存の研究所(MRCの分子生物学研究所やウェルカム・トラストのサンガー研究所など)、および新規の研究所(フランシス・クリック研究所やサー・ヘンリー・ロイス先端材料研究所など)に卓越した科学インフラがある。これは2021年までに、新規設備、新規研究室、新規研究所といった研究インフラに69億ポンドの記録的な投資を行うという公約によって裏付けられている。

・世界中の主要研究インフラへのアクセス
英国は、英国が主導的役割を果たす大型ハドロン衝突型加速器(LHC)など世界の主要研究インフラを利用できる。本部がジョドレル・バンクに置かれる予定のスクエア・キロメートル・アレイ(SKA)などの新規インフラ建設や、重力波の劇的な発見をしたLIGO科学コラボレーションでは、英国は重要なパートナーである。

・イノベーション
最近のグローバル・イノベーション・インデックスでは英国は第2位であり、企業の国際的な研究開発投資ではOECD諸国の中でも最も求心力の高い国の一つである。

このように基盤は強固であるものの、EU離脱が英国の科学・イノベーションに及ぼす影響について評価する必要がある。そして、この離脱に備えて、高等教育および研究会議の組織再編に関するホワイトペーパーおよびその関連法案に盛られた提案、並びに「ナース・レビュー」による提案を実行に移す必要がある。

● 欧州と世界

英国の研究者や企業がEUの研究ファンディング・プログラムで非常に恩恵を受けていることは疑う余地がない。また英国は、ピアレビューや優れたファンディング力を重視する英国独自の構想を欧州研究会議(ERC)が具体化するよう支援してきた。新たな合意がどんな内容になるか、後継の枠組みプログラムと英国との関係はどのようなものになるのかについて、言及するにはまだ早すぎる。

英国は8世紀以上に亘ってって学問の中心であり、英国の大学はEUが形成されるずっと以前から知識のハブであった。2012年には英国研究者による発表記事の約半数が英国以外の研究者1名以上との共著となっており、主要研究国の中ではフランスに次ぐ第2位である。このような繋がりは今後も続く。

● 新組織”UK Research and Innovation(UKRI)”の役割

EUとの関係が変化するこの時期に、UK Research and Innovation(UKRI)の創設が英国の研究・イノベーションのリーダーシップに必要不可欠な支援を行う。政府は英国の研究・イノベーションを強化する施策を検討中で、まもなく新規の国家イノベーション計画を発表する。すでに研究資金は確保されており、Innovate UKを通じたイノベーション資金を維持している。研究開発費税額控除(R&D Tax Credit)の恩恵を受ける企業数は記録的な数となっている。カタパルト・ネットワークも引き続き発展しており、そこでは最先端の企業、科学者、臨床医、エンジニアなどが密接に連携している。

しかし成果のいずれの場合でも、英国の科学的発見が海外で展開され、競争相手に持って行かれ、他の地域で活用されている例がみられる。それゆえ、技術動向を見極め、研究投資に対してさらなる戦略的アプローチを展開するために英国にUKRIが必要なのである。イノベーションは科学技術各領域間の境界領域で生まれることがますます多くなっている。このことは、我々が直面する重要な問題の多くは学際的または多分野による解決策を必要とすることを意味している。研究会議の組織再編の必要性を訴えたポール・ナース卿による「ナース・レビュー」では、次のようなギャップを埋める必要があるとしている。

・分野間および研究基盤・意思決定者間の戦略的一体化が欠如している
・投資方式が分散しているため、複数分野および分野間の研究に対する効果的な取り組み能力が欠如している
・歴史的に見て、イノベーションのためのよりスムーズな進路へのニーズを有した商業化能力が弱い

上記理由から政府はUKRI設置の法制化を進めており、これには7つの研究会議、Innovate UKおよびResearch England(HEFCEの研究機能部分)が含まれる。UKRIは次のような組織になる。

・政府から独立して運営される単一の包括的ファンディング機関として機能し、研究・イノベーションのコミュニティの意見を強力に発信する。現在審議中の高等教育・研究法案では、各研究会議がその独立性を維持しつつも、どのように最適な研究・イノベーションにファンディングを行い、最も優れた人材を採用し、個々の分野のコミュニティの役に立つのかという点について明記している。
・研究・イノベーションのコミュニティのメンバーが主導して研究・イノベーションの国家戦略を策定するべく、より一貫性のある仕組みを確保する。
・UKRIは発見から実用化に至る広範囲の権限を有する。ただしInnovate UKは引き続き企業主導のイノベーションに焦点を絞り、(UKRI内での)予算も別になる。

[DW編集局]