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国・地域名:
スイス
元記事の言語:
英語
公開機関:
スイス国立科学財団(SNSF)
元記事公開日:
2016/11/18
抄訳記事公開日:
2017/01/04

オープン・アクセスに向けた出版システムの転換シナリオ

Transitioning the publication system towards Open Access: Study proposes pragmatic scenario

本文:

スイス国立科学財団(SNSF)の2016年11月18日付のニュースで、標記の記事が掲載されている。以下にその概要をまとめる。
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スイス国立科学財団(SNSF)らが実施した調査によって、オープン・アクセス(OA)に向けたスイスの科学出版システムの変革を再構築するためのシナリオが初めて作成された。

この調査は、SNSFが、スイスの大学が運営する科学情報プログラム(SUC P-2)とともに実施したもので、公費が支給された研究による出版を無料で、また遅延なく自由に利用できるようにするための実際的かつ柔軟な方法を示すモデルが調査の結果から提案されている。

2015年、スイスの大学図書館は、250万報を超える科学論文を閲覧可能にするために、ライセンス料および購読料として合わせて7,000万スイスフランを出版社に支払っており、また研究者は、研究の成果を学術雑誌に掲載してもらうため論文掲載料としてさらに600万スイスフランを支出しているということが、スイスの高等教育システムのキャッシュ・フローの初期分析で明らかになった。

このキャッシュ・フロー分析は、SNSFがSUC P-2とともに委託したもので、2024年までに、公費を支給された研究の出版物に無制限に、また遅延なく電子的にアクセスできるようにすることを目的に、システムの変革を再構築する場合の費用についてデータを示している。

キャッシュ・フロー分析では、OAを実施するための様々なシナリオについての費用を区別している。報告書によれば、「ブルー・ロード」では年間200万スイスフラン以上のコストが節約されるという。このシナリオでは、すべての論文の出版社バージョンが、一定の期間を経た後に、無料で一般公開されている大学の機関レポジトリに保存される。もう一つのシナリオは、「ゴールド・ロード」であり、一般に著者もしくはその他のスポンサー(大学、研究資金供与組織など)が論文掲載料を支払えば、ただちに論文がOAジャーナルに掲載される。このシナリオが現時点で全面的に実施されていれば、スイスでは年間さらに2,700万スイスフラン前後の費用が支出されることになる。この追加費用は、「ハイブリッド」OAモデルでさらにはね上がる。本来はクローズド・アクセスで、無料で閲覧できない学術誌から、OA条件で論文を掲載するための手数料に加え、購読料も請求されるからである。つまりこのシナリオでは、論文料金は基本的に二重払いされることになる。

調査報告書を作成したCambridge Economic Policy Associates者は、様々なシナリオにともなう費用と、現在実際に発生している標準的な費用を比較している。スイスにおける実際の費用は、オープン・アクセスの「ゴールド・ロード」への転換が世界でどの程度進んでいるかによって大きく左右される。スイスは研究拠点としては比較的小規模なため、あらゆるシナリオにおいてスイスで発生する費用は、全世界の「ゴールド・ロード」の割合が50%に達するまでの時間が短ければ短いほど減少する。今回の報告書で著者らは、オープン・アクセスを目指す「ブルー・ロード」と「ゴールド・ロード」の両方を可能にするような複合的なアプローチを推奨している。彼らは、オープン・アクセスに向けて出版システムを再構築するためのこうした実際的かつ柔軟なモデルにより、スイスにおける追加費用は年間1,300万スイスフラン程度に抑えられるものと予想している。

[JSTパリ事務所]