[本文]

国・地域名:
米国
元記事の言語:
英語
公開機関:
米国科学振興協会(AAAS)
元記事公開日:
2016/12/22
抄訳記事公開日:
2017/01/26

トランプ次期大統領による行政管理予算局長指名に関するメモ

Notes on President-Elect Trump’s Pick for Budget Director

本文:

2016年12月22日付の米国科学振興協会(AAAS)の標記発表の概要は以下のとおりである。

トランプ次期大統領は大統領府の行政管理予算局(OMB)の局長に下院議員のミック・マルヴァニー氏(共和党、サウスカロライナ州)を指名する旨発表した。同氏はその経歴から見て連邦政府の歳出赤字に反対する小さな政府の提唱者であるが、その同氏がトランプ次期大統領の予算の厳格な番人として直接関与することになる。

科学技術の領域については、ジカウィルス研究に対する連邦政府ファンディングに関して、マルヴァニー氏の見解がどうなるかについて注目されている。同氏は2016年9月にFacebook上の投稿でジカウィルスと出生異常との関係に疑問を呈し、そのような疑問が生じる不確実さがあっても絶対に政府ファンディングによる研究が必要なのかどうか問うている。

また来るべき政権の他の要人同様、気候変動についてはマルヴァニー氏も懐疑派であり、2010年の選挙キャンペーンのWebサイトで「地球温暖化に関する根拠のない主張」に言及している。
上記に述べた以外には科学技術ファンディングに直接関係する同氏の目立った実績はないが、広範にわたる同氏の地位の多くが関与することは間違いなく、同氏が政府の科学技術投資に正面から取り組んだ例もいくつかある。以下は科学技術関連観測筋の視点で見たメモである。

・マルヴァニー氏は裁量支出の大幅削減に向けて戦った一派の1人である

裁量予算(議会が毎年歳出予算プロセスを経て割り当てる必要のある予算の一部)は連邦政府全支出額の約3分の1を占めるに過ぎないが、実質的に科学技術支出のすべてが含まれる。裁量予算における変更は科学技術関連省庁に大きな影響を及ぼす。

マルヴァニー氏は共和党調査委員会(RSC)のメンバーであり自由議員連盟(HFC)の共同創設者の一人でもあり、いずれも裁量予算を赤字削減の資源として一貫して狙っている。比較的歴史も古く規模も大きいRSCは、主流の下院共和党予算の代替を意図した年次予算を発表しており、RSCは同僚議員よりも支出に対して厳しい態度をとるのが通常である。例えばごく最近の2017年度向けRSCの提案では、今後10年間に現行の上限を下回るさらなる1兆ドルの裁量予算削減を提言している。これは歳出自動削減措置のレベルを累積で8.6%下回る削減となり、下院予算委員会の提言より大きい削減になる。RSCの計画ではまた、2017年度だけで裁量予算を9%削減することによりごく最近の予算折衝を突破しようとした。

重要なことは、このような削減の負担がすべて非国防予算で実施されることであり、国立科学財団(NSF)、米国航空宇宙局(NASA)、国立衛生研究所(NIH)等国防領域の外にあるすべての科学技術省庁の予算が対象となる。RSCの計画の下では、非国防予算は10年間で1.4兆ドル、つまり25%削減されることになる。一方国防予算のほうは同じ時期に4,060億ドル、つまり6.8%増えることになる。また2017年度の非国防予算は22.9%の大幅削減をされることになる。これは科学技術関連省庁にとって厳しい削減で、数年前に始まった歳出自動削減措置を超えており、今後の回復の可能性が極めて限られたものになる。

同時にRSCの国防支出優遇策は国防科学技術企業にとっては吉報となる可能性があり、とりわけこれらの企業は大学研究の主たる資金提供者である。しかしマルヴァニー氏は時には国防支出にも批判的な姿勢で臨んだこともある。

・マルヴァニー氏はかってDOEの科学・エネルギー研究プログラム予算の24%削減を試みたことがあった

裁量支出に対する姿勢と一致しているのであるが、マルヴァニー氏は科学技術関連省庁の資金を削減したり制約したりする取り組みに加担する傾向があった。2012年6月、2013年度のエネルギー・水法案の審議中に、DOEの科学局、エネルギー効率・再生可能エネルギー局、エネルギー高等研究計画局、化石エネルギー研究開発プログラムなど、DOEの複数のプログラム予算を各々24%削減する修正案を提示したが、結果的には不成功に終わっている。この修正案では原子力関連の部局による研究・技術プログラムは除外されている。

・マルヴァニー氏は製造業イノベーション・技術プログラムに疑念を表明している

全米製造業イノベーション・ネットワークなどのイニシアティブにより米国製造業復興の試みは、オバマ時代の政権にとって主要な優先課題であった。このような取り組みの多くは、クリーン・エネルギーに特別の視点を置いて技術の拡散を促進し生産性を高めるべく、産業界の連携を目指してきた。しかしマルヴァニー氏はこれに反対であった

「様々なグリーン・エネルギーのセグメントに膨大なインセンティブを与えようとしているが、懸念すべきは現在の投資よりもより効果的な取り組みに対する予算を吸い上げてしまっている可能性があることである」と同氏は述べている。

・マルヴァニー氏は「米国コミュニティ調査」にゼロ査定の票を投じた

国勢調査局の「米国コミュニティ調査(ACS)」は重要な社会経済データ源であるが、党派間論争の火種にもなる。2012年5月に廃止のターゲットにされた。2013年度の商務・司法・科学支出法案に対する下院修正案(共和党提出)が賛成多数(マルヴァニー氏も1票を投じている)で可決された。しかし、本修正提案は上院では成立していない。

[DW編集局+JSTワシントン事務所]