[本文]
-
- 国・地域名:
- 米国
- 元記事の言語:
- 英語
- 公開機関:
- 全米科学・工学・医学アカデミー(NASEM)
- 元記事公開日:
- 2017/02/14
- 抄訳記事公開日:
- 2017/03/28
-
遺伝性生殖細胞エディティング臨床試験が許可される可能性
- 本文:
-
2017年2月14日付の全米科学・工学・医学アカデミー(NASEM)の発表の概要は以下のとおりである。
ヒトの生殖細胞のゲノム編集(配偶子または初期胚中のDNA塩基対の追加、削除、置換)に関する臨床試験が将来許可されることはあり得るが、厳正な監視下で重篤な状況の場合に限る、と全米科学アカデミーおよび全米医学アカデミーによる最近の報告書は述べている。この報告書では、生殖細胞系列の編集に関わる臨床試験を進める前に満たすべきいくつかの基準を概説している。ゲノム編集は非遺伝性の応用分野ではすでに臨床試験に入っているが、現時点では疾患や障害の治療・予防にのみ許可されるべきである、としている。
ヒトゲノム編集は基礎研究ではすでに広く用いられており、非遺伝性体細胞が関与する臨床応用では開発・試験の初期段階にある。これらの治療は患者に影響を及ぼすのみで子孫には影響がないので、遺伝子治療の展開に必要な既存の倫理規定や規制枠組みを用いて、疾患や障害の治療や予防を継続する必要がある。監督当局は、リスクも利益もある使用目的との関連において、提案されている非遺伝性応用の安全性と効果を審査する必要がある。
しかしながら上記と同じ技術を肉体的な力など(あるいは知能の向上などあり得ない使用法までも)人間の特性や能力のいわゆる「強化」のために使用する可能性については、社会的に大きな関心が存在する。報告書では、能力強化目的のゲノム編集は現時点では許可されるべきではなく、疾患や障害の治療・予防の目的以外で体細胞ゲノム編集の臨床試験を許可するには、広範な情報公開と議論を要請する必要がある、と提言している。
体細胞の場合とは対照的に、生殖細胞のゲノム編集は遺伝子の変化が次世代に継承されるので異論が多い。多くの人が生殖細胞系列の編集を倫理的に犯すべからざる線を越えたものだと認識している、と報告書は述べている。持ち上がっている懸念には、ヒトの生殖を妨げることに対する信条的な反対、障害を持った人に対する社会的態度への影響の懸念、将来の子供の健康や安全に対するリスクの可能性などがある。しかし生殖細胞のゲノム編集は、遺伝的疾患を抱えた一部の両親にとっては、遺伝的につながりのある自分たちの子供がそのような疾患を持たずに生まれてくるという最も受け入れやすい選択肢が提供される可能性がある。
遺伝性の生殖細胞系列の編集はヒトに試行する段階には至っておらず、臨床試験に必要な適正なリスクと利益の規準を満たすにはさらなる研究が必要とされる。しかし技術は急速に進歩しており、早期胚、卵、精子、前駆細胞の遺伝性ゲノム編集は予測可能な未来において真剣に考慮する価値のある実現可能性をもたらしている、と報告書は述べている。遺伝性の生殖細胞ゲノム編集試験は注意して取り組むべきことに違いないが、「注意」は「禁止」を意味するものではない、と報告書作成に当たった委員会は述べている。
現在米国では遺伝性の生殖細胞系列の編集は許可されていない。これは、遺伝性の遺伝子組み換えを含むヒトの胚の意図的な作成・改変の研究を、食品医薬品局(FDA)が連邦政府の資金を使って評価することが現行法で禁止されているからである。外国でも多数の国が生殖細胞の改変を禁じる国際協定に署名している。現行の制約が解除されて生殖細胞のエディティングが許可される場合には、臨床試験を進める前に満たす必要のある次のような厳格な規準を(報告を作成した)委員会は提言している。
・他に合理的な代替手段がないこと
・重篤な疾患や状態に原因があるかまたは強度にかかりやすいことが合理的に証明されている場合の遺伝子編集に限定すること
・リスクおよび健康上の利点に関する非臨床データ・臨床データが信頼できるものであること
・臨床試験期間中は厳格な進行監視をすること
・数世代にわたる長期フォローアップに関する包括的計画を有すること
・健康および社会的利益・リスクの両面に関する再評価を継続すること。これには一般からの広範囲にわたる継続的な意見聴取が伴う。
・重篤な疾患・状態の防止以外の目的での利用の拡散を防止するための信頼性のある監視機構を設けることヒトゲノム編集適用に関わる政策決定には公衆の参加が必要であり、ゲノム編集研究のファンディングには社会・政治的、倫理的、法的側面の調査支援を含める必要がある。報告書ではヒトゲノム編集の研究・適用の統治に当たる国家が用いるべき一連の包括的原則(福祉の増進、透明性、当然払うべき注意、信頼できる科学、個人の尊重、公平性、国家間協力)を提言している。
[DW編集局+JSTワシントン事務所]