[本文]

国・地域名:
米国
元記事の言語:
英語
公開機関:
米国科学振興協会(AAAS)
元記事公開日:
2017/05/01
抄訳記事公開日:
2017/06/07

議会はホワイトハウスの提案を拒否、目標とする科学技術振興策を追求

Congress Rejects White House Approach, Pursues Targeted Science & Technology Boosts

本文:

2017年5月1日付の米国科学振興協会(AAAS)による標記発表の概要は以下のとおりである。

米国議会はようやく最終的な2017年度包括的ファンディング法案を発表した。議会案はトランプ政権の提案とは全く異なるので、科学者・技術者の多くが安堵できるものである。AAASの現時点の予測によると、上記包括法案では連邦政府の研究開発費が2016年度のレベルより5%増える。基礎・応用研究、開発、研究開発施設のファンディングの増加である。一部の省庁やプログラムではかなりの増額になり、特に顕著なのは国立衛生研究所(NIH)、国家海洋大気局(NOAA)内の研究局、国防総省科学・技術プログラム、エネルギー高等研究計画局(ARPA-E)である。その他いくつかの省庁でインフレ率に近いかそれ以下の小規模な増加が見られる。また対前年比での減少も所々見られる。

総合的に見て、このファンディングの結果は2つの大きな理由で注目すべきものがある。第1に、2017年度の支出上限は増加の余地はほとんどないとされている。十分な交渉の余地がなくても、議会は多数の省庁に対してこの制約を克服できたのである。さらに重要なことはこの判断がトランプ政権の今年度の支出方針に対する直接的な反対行動として働くことである。

●研究開発全般

AAASの予測では包括的予算の研究開発費の総額は1,558億ドルで、2016年度比では5.0%の伸びである。国防研究開発がかなり大幅な増になる。これには基礎研究の4.1%増、応用研究の6.3%増、開発の4.0%増、施設・装備の2.9%増が含まれる。
現時点の予測では連邦政府の研究開発費はGDPの0.81%になり、わずかな上昇となる。

●国防総省(DOD)

DODの科学技術支出は、センサー、材料等の領域における応用研究や先進技術に特に集中しているが、ほとんどの軍事部門・機関を通じて全般的に伸びが見られる。基礎研究はDOD全体で1.4%の減。DARPAの予算も期待されたよりも小さな伸びになると見られる。多数の医療関連テーマに関するDOD内外の研究のファンディングを行うDODの医療研究予算は、小規模ながら0.9%の削減となる。議会が追加した、がん、外傷性脳損傷等領域に関する(同業者の評価を得た)研究は、9億ドル強に達する。

●エネルギー省(DOE)

DOEの科学局の予算は包括的予算では僅か0.8%の増であるが、これにはフランスに建設中の国際核融合炉、ITERに対する大幅削減が含まれる。議会はこのプロジェクトの運営に懸念が高まる中、(2016年の1億1,500万ドルに対して)5,000万ドルしか充てていない。核融合以外のその他プログラムは一定範囲のむしろ安定した予算増を獲得している。先進コンピューティングには4.2%の大幅増が予定されており、科学局のエクサスケール・コンピューティング・イニシアティブには追加で1,000万ドルが割り当てられる。

DOEの応用技術プログラムはトランプ政権が大幅削減を意図していて、すでにARPA-Eのファンディングのペースダウンを図ろうとしていることを考えると、議会の包括的予算によるDOE技術プログラムのファンディングは驚くほどである。5つのプログラムがすべて最低でも緩やかな予算増を得ている。グリッド技術およびサイバーセキュリティの研究開発には最大幅の増額が予定されている。再生可能エネルギーに関する多くのプログラムは削減の対象になっているが、議会はDOEのクリーン・エネルギー製造技術イノベーション研究機構やエネルギー・水脱塩ハブ向けのファンディングは取り上げている。議会はまた先進石炭技術の実証パイロット・プロジェクトに5,000万ドルを割り当てている。包括的予算における国家核安全保障局(NNSA)のファンディングは4億1,200万ドルの増となり2016年比で3.3%増である。

●国立衛生研究所(NIH)

NIHは包括的予算で2016年度のレベルより20億ドルの増となり、6.2%の増である。これには昨年の「21世紀医療法」により提供された別枠の3億5,200万ドルが部分的に役に立っている。過去数年と同様にアルツハイマー病の研究に対する特別の考慮が保証され、国立老化研究所で28%増が予定されている。国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)では2億7,700万ドルつまり6.0%の増が保証される。NIAIDは最近ジカウィルスのワクチンの可能性研究に1億5,200万ドルの緊急ファンディングを受けている。生物学的プロセスや生命体の中核的基礎研究を実施する「総合医科学」では実質的に5.5%の予算増が確保されている。その他ほとんどの研究所が最低でもインフレ率並みの増額となっている。包括的予算ではまた、精密医療(Precision Medicine)イニシアティブに1億2,000万ドル、BRAINイニシアティブに1億1,000万ドル、抗菌剤耐性研究に5,000万ドル、いずれも増額で対応している。国立がん研究所(NCI)には「21世紀医療法」やオバマ前大統領の”Cancer Moonshot”に則った3億ドルの追加配賦がされており、NCI全体で9.1%の増になる。

●国立科学財団(NSF)

NSFの予算は全体として顕著な増減は見られない。NSFの6つの研究部局の資金源である研究関連業務(R&RA)予算は、2016年度と同等のレベルに留まっている。広範囲のSTEM教育プログラムのファンディングを行っている教育・人的資源局の予算も変化がない。

●米国航空宇宙局(NASA)

NASA全体の予算は2017年度の自由裁量要求を超える満額の14億ドル増となった。NASAの科学ミッション局(SMD)内の予算増のほとんどが惑星科学向けで、予定された木星の衛星”Europa”へのミッションに2億7,500万ドル、2020年火星ミッションに4億800万ドルなどである。一方、地球科学は前年度と変わらず、天体物理学は少々削減される。

スペース・ローンチ・システム(SLS)およびオリオン多目的有人宇宙船には上下両院の提言額のうち高い方の金額が配賦される。しかし宇宙技術ミッション局は前年度並みで、NASAの商用クルー・プログラムは5,900万ドル(4.7%減)となる。

●国立標準技術研究所(NIST)

科学技術研究業務(STRS)予算を通じてファンディングを受けるNISTの中核的研究所は、前年度並みの予算になる。製造イノベーション全米ネットワーク(NNMI)およびホーリングス製造業拡大パートナーシップ(MEP)に対するファンディングはいずれも昨年度と同じレベルにとどまる。NISTの研究施設建設予算は、昨年度のレベルから1,000万ドル(8.4%減)下げられる。

●米国海洋大気局(NOAA)

NOAAの海洋・大気研究局は全般的に2016年度より3,200万ドル(6.7%増)の実質増になり、気候・大気の化学研究に重点を置いたファンディングになる。NOAAの気候研究は下院による19%大幅削減の標的とされたが、結果的に増減のない2017年予算になる。五大湖研究予算はわずかに上昇するが、国立気象局は基本的に昨年のファンディング・レベルに留まる。
静止実用気象衛星Rシリーズ(GOES-R)および極軌道環境観測衛星(JPSS)に対するファンディングは、上下両院とホワイトハウスの間で要求が一致した。

●環境保護庁(EPA)

EPA全体の自由裁量予算は2016年度に比べてわずか1.0%の削減になる。EPAの科学技術予算は昨年のレベルより約1,600万ドル(3.3%減)削減される。大気、気候、エネルギープログラムに対するファンディンはほぼ前年度並みとなる。EPAのスーパーファンド予算による特定の研究業務は削減される。

[DW編集局+JSTワシントン事務所]