[本文]

国・地域名:
英国
元記事の言語:
英語
公開機関:
首相官邸
元記事公開日:
2018/05/21
抄訳記事公開日:
2018/09/12

科学と新産業戦略に関するメイ首相の演説

PM speech on science and modern Industrial Strategy: 21 May 2018

本文:

首相官邸の2018年5月21日付標記発表では同日メイ首相がジョドレルバンク(Jodrell Bank)天文台(マンチェスター近郊にある電波天文台)で行った演説の内容を報じている。概要は以下のとおり。

● 英国の科学的業績

科学・イノベーションにおける英国のグローバルなリーダーシップは、英国の最も偉大な資産の一つである。英国は数世紀にわたって科学的偉業の発祥地であり続けてきた。

(現代生理学の基礎をなしている)血液が体内を循環するというウィリアム・ハーヴェイの発見、アイザック・ニュートンによる運動、光、重力に関する法則の確立、マイケル・ファラデーによる電磁誘導の発見、フランク・ホイットルによって開発されたターボジェット技術、ドロシー・ホジキンによるインスリンの構造に関する画期的業績等々、多数の業績がある。これら科学者や発明家の一人一人に、多くの時間を費やして忍耐強い努力から生まれた人類の成果に関する感動的な物語があり、我々のすべてがこのような成果の恩恵を享受している。

科学研究は、それが直接的に実用に至るか否かによらず、崇高な探求であり公益的なものである。しかし特定の発見が特定の産業セクターを創出あるいは変革する可能性があるときには、英国の起業家はそのたびに真っ先にそれに対する資本投下を行ってきた。

英国の主要な町や市は革新的な生産の世界的拠点として成長してきた。しかしイノベーションや進歩というのは、必然的に新しい技術が古い技術にとって代わるという性格を持つ。そして21世紀には、かつてイノベーションと技術ゆえに繁栄した英国の一部の地域において、過去の雇用や機会が失われていくのを見てきた。それでも一方で、英国の発明や改革の能力が21世紀のサクセス・ストーリーを生み出すのも見てきた。

国家としての課題は、第4次産業革命において世界を主導することだけではなく、英国のあらゆる地域がその成功の力となるようにすることである。それこそが新産業戦略の全てである。

● 新産業戦略の中核に位置する科学

ここ数年間に、フランシス・クリック研究所(欧州の生物医学研究施設)やベッドフォードの航空宇宙技術研究所(航空宇宙セクターにおける研究・技術を主導)など新たな重要研究施設の創設に政府の支援が役立っている。また産業戦略においては英国の科学・技術に対する支援をさらなるレベルに引き上げる取り組みを行っている。科学、研究、イノベーションに対する新たな公的ファンディングに70億ポンドが充てられるが、これは過去40年間で最大の増額である。さらに政府は2027年までに研究開発投資を対GDP比の2.4%にするという目標を設定した。これは今後10年間に将来構想に800億ポンドの追加投資をすることを意味する。

しかし上記の数字だけで創造される可能性の規模を把握することはできない。今日の科学によるブレークスルーは技術の進歩をもたらすが、技術の進歩それ自体がさらなる科学的発見の扉を開く。またその資金は、公的資金だけでなく民間による投資も活用される。

戦略的アプローチの一つは、将来の経済発展に必要な技能を若い人たちに教授する教育制度を確保することである。教育以外にもインフラの更新と拡張、次世代モバイル・ブロードバンド接続の提供、適正な規制/現代に即した雇用基準/効果的な企業統治規則の確保などがある。

● 主要課題(グランド・チャレンジ)

新産業戦略では英国経済に巨大な可能性をもたらす領域として、人工知能(AI)とビッグデータ革命、世界的な人口増と都市化の進行、先進国での高齢化社会の進行、気候変動とクリーン成長というグランド・チャレンジ4項目を特定し、4つのミッションとして設定する。

・データ、人工知能、イノベーションを活用して、2030年までにがん、糖尿病、心臓病、認知症のような疾患の予防、早期診断、治療に変革をもたらす。
・2035年までに人々が、今よりも5年長く健康で自立した生活を送れるようにする。医療の進歩、優れた薬剤、より健康的なライフスタイル、より安全な職場によって、我々はより長生きできる。
・英国をゼロエミッション車の設計と製造の最前線に置き、2040年までにすべての新車とバンを実質的にゼロエミッション車とする。
・新技術と最新の建設施工方式を活用して、2030年までに新しい建物のエネルギー使用量を少なくとも半分にする。

● 科学とEU離脱(Brexit)

科学は国際的な事業であり、発見に国境はない。孤立して達成されるものは何もなく、協力を通じてのみ進歩がある。今日の英国は国際協力の中心国である。英国の移民制度はこれを支援しており、英国の大学に来ることのできる学生の数に制限はなく、毎年何千人もの学生がやってくる。最高レベルの優れた研究者がやってきて価値ある貢献をすることを英国は引き続き歓迎する。現実に英国在住の研究人口の半分以上が外国出身である。これは英国のEU離脱後も変わることはない。

英国の科学者がEU主宰のプログラムを通じた他国の研究者との研究協力に大きな価値を置いていることは分かっているし、英国の科学がEUのプログラムに対して果たしている貢献も甚大である。EUとは深い研究協力を維持することが望ましく、それが欧州全域の科学界、産業界の利益になる。

英国は、”Horizon 2020″とEuratom(欧州原子力共同体)研究・教育プログラム”の後継プログラムを含む卓越した欧州の科学・イノベーション・プログラムと全面的に(資金拠出を含めて)連携することを希望する。そうすることが英国・EU双方の利益になる。

[DW編集局]