[本文]

国・地域名:
米国
元記事の言語:
英語
公開機関:
米国科学振興協会(AAAS)
元記事公開日:
2018/10/03
抄訳記事公開日:
2018/12/10

AAASのホルトCEOがEPAに「透明性ルール」の撤回を要請

AAAS CEO Defends Scientific Evidence, Urges EPA to Scrap “Transparency” Rule

本文:

10月3日付の米国科学振興協会(AAAS)による標記報道発表の概要は以下のとおりである。

政策の策定と規制の執行において、環境保護庁(EPA)が重要な科学的知見に依拠することを排除するという立法措置は、人の健康や環境を保護する同庁の能力を損なうものであると、AAASのラッシュ・ホルトCEOは、10月3日の上院の小委員会で述べた。

「率直に言って、あなた方が今日検討している提案は健全な科学に関するものではなく、規制を縮小することに関するものである。その規則の効果は、EPAが利用する、優れた、関連する科学を有意に減少させるものであり、そのような変化は人々や環境に害を及ぼす結果をもたらすであろう。」とホルトは述べた。

ホルトの議会証言は、秘密科学法(Secret Science Act)として最初知られることとなった法案が、後に、「EPAによる公正でオープンな科学の新しい取り扱いに関する法律」(HONEST法)として作り直され、最近になって「透明性ルール(transparency rule)」として知られるEPAの規則案として提案されるに至ったことに対して行われたものである。

下院はその法案(HR1530)を2017年3月29日に可決している。ホルツの議会証言は、その上院案(S-1794)の最初の審議の一環として、上院環境・公共事業委員会のスーパーファンド・廃棄物管理・規制監視小委員会公聴会において行われた。同小委員会の委員長である、サウスダコタ州選出のマイク・ラウンズ上院議員が昨年12月に法案を提出している。

その後に、EPAの前長官であるスコット・プルーイットが、その法案を実質的に連邦政府の規則にするための法案を提出した。その規則は「レギュラトリー・サイエンスにおける透明性の強化に関する規則」(「透明性ルール」)と命名され、未だ制定には至っていない。

公聴会の冒頭の発言の中で、ラウンズ委員長は、法案と透明性ルールに対する支持を表明するとともに、EPAは規制行為において依拠している全ての科学的根拠を公開し、「研究成果の独立した分析と十分な再現」を可能にするような方法で公開すべきであると述べた。

ニュージャージー州選出のコーリー・ブッカー上院議員は、そのルールと提案されている法案が成立すると、ディープウォーター・ホライズン油流出事故のような過去の環境災害の結果として集められた科学的データを研究することや、公開することができない個人の医療情報やビジネスの機密情報を必要とする科学的研究を行うこと、また歴史的な研究からの知見を基に、子どもの鉛への暴露に関する新たな基準を設定することができなくなると反論した。

ホルトは、このルールの提案者が主張する正当性の理由である、「秘密科学(secret science)」を終わらせる必要性について吟味し、その主張には、EPAの手続きあるいはそれがもたらす科学的研究に欠陥があるという証拠が欠けていると述べた。「本当の公然の秘密は、このルールの提案者はよりよい科学的手続きを目指してはいないということだ。彼らは、規制を緩和するために、研究を都合よく選ぶ方法を求めているように見える。」と述べた。

「レギュラトリー・サイエンスにおける透明性、公開性、ピア・レビューは、1848年の創立以来、AAASが擁護してきた科学の不可欠な要素である。しかしながら、このいわゆる透明性ルールは狡猾な策略である。」と述べ、小委員会が審議している法案は「正当化できない。」と付け加えた。

上院議員の質問への回答の中で、ホルトは、EPAが依拠する科学的知見は何年も後でも再現できなければならないという透明性ルールの要求は、本当の問題から目をそらそうとするものであると述べた。例えば、自然災害はそのものの性質から、再現不可能であると指摘した。

「実験を繰り返すことはできないが、ピア・レビューと独立した検証によって検証することはできる状況は多く存在する。科学が適正に行われたことを確認するために、汚れた空気を吸い、あるいは汚染された水を飲んだ犠牲者の氏名を知る必要はない。」とホルトは言った。

EPAは、1970年代の初め、劣化する水や空気の質に関する懸念が高まった時に設立された。それ以来、同庁は、水質汚濁や大気汚染を防止し、有毒物が天然資源に損害を与えたり人々を危険にさらしたりすることを抑止するための、画期的な連邦環境保護法を施行してきた。

マサチューセッツ大学のエドワード・J・カラブレス毒物学教授とジョージタウン大学ビジネス・公共政策センターの政策の専門家であるロバート・ハーン氏は証言において、ホルトの証言と相対立する見解を述べた。

カラブレスは、透明性ルールを称賛し、「科学的・行政的説明責任」がもたらされると述べた。しかし、現在提案されているルールではまだ十分ではないとし、EPAが規制を策定するときに検討した全てのデータと、後に否定された仮説とその理由も公表することを義務付けるべきであると求めた。彼はEPAのリスク評価モデルを嘲笑し、それが放射線の人や生態系へのリスクの誤った評価につながっていると述べた。

ハーンも、透明性ルールが、EPAが規制策定過程で用いた科学モデルと科学データへの公衆のアクセスを求めていることを支持した。また透明性ルールが科学的研究を抑圧するという見解に異議を唱えた。彼は、そうではなくて、このルールは、政府における証拠に基づく意思決定を改善するものであり、全ての連邦省庁に広く適用されるべきであると述べた。

対照的に、ホルトは、受け入れられている科学的手続きは、いかにすれば、生のデータの公表がなくとも、結果を試験し、結論を検証することができるかを明らかに示しているとし、データの公表は、研究参加者に対してなされた秘密保持の約束や民間企業が行った研究から収集された所有権のあるデータを保護する連邦法に違反する可能性があると述べた。

また、ホルトは連邦省庁から提起されている懸念を共有した。国防総省は透明性ルールには問題があると述べ、またEPAの化学物質を規制する部署は、透明性ルールは大変な負担となり、現実的ではなく、毒物規制法に基づき同庁が既存の化学物質の安全性を評価している方法を台無しにするリスクがあると指摘している。

「私は皆さんがこれらの提案を廃案にし、規制プロセスにおいて科学を(より少なくではなく)より多く活用していく方法を見出すため、、科学コミュニティやその他の利害関係者と協力することを勧める。」とホルトは述べた。

[DW編集局+JSTワシントン事務所]