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- 国・地域名:
- 米国
- 元記事の言語:
- 英語
- 公開機関:
- 全米科学・工学・医学アカデミー(NASEM)
- 元記事公開日:
- 2018/10/24
- 抄訳記事公開日:
- 2018/12/28
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NASEMがネガティブエミッション技術の振興を提案
- 本文:
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10月24日付の全米科学・工学・医学アカデミー(NASEM)による標記報道発表の概要は以下のとおりである。
気候と経済成長に関する目標を達成するためには、大気から二酸化炭素を回収し隔離する「ネガティブエミッション技術」(NETs)が気候変動を軽減する上で重要な役割を果たす必要があると、NASEMの新たな報告書は述べている。報告書は、これらの技術をできる限り早急に進歩させるために、相当規模の研究の取組みを立ち上げることを求めている。
「NETsは、なくすことが難しい二酸化炭素排出をオフセットするために不可欠であり、気候変動緩和のポートフォリオの一部と見なすべきである。」と、この委員会の委員長であり、プリンストン大学のフレデリック・D.・ペトリー生態学・進化生物学教授であるステファン・パカーラは述べている。
石炭火力発電所のような大規模な発生源から排出された二酸化炭素を直接取り除くCCS(Carbon Capture and Storage)技術とは違って、NETsでは、気候変動を引き起こす最も重要な温室効果ガスである二酸化炭素を直接大気から除去したり、天然の炭素吸収源を強化したりする。NETsにより回収した二酸化炭素を貯留することは、同量の二酸化炭素の排出を防ぐことと同じインパクトを大気と気候に与える。
例えば、1ガロンのガソリンの燃焼は約10キログラムの二酸化炭素を大気中に放出する。何らかのNETにより10キログラムの二酸化炭素を大気から回収し永久に隔離することは、何らかの緩和方法により1ガロンのガソリンの燃焼を防ぐことと同じ効果を、大気中の二酸化炭素に与える。
今日活用可能なNETsは、米国や全世界において、全排出量の相当な部分を除去し貯留できるように、安全にスケール・アップすることができるかもしれないが、パリ協定の目標である、産業革命前と比較して世界の平均気温上昇を2℃未満に抑えるためには十分ではないと、委員会は結論付けた。このため、高コスト、土地や環境の制約、エネルギー消費といった、NETsの配備を現在制約している制限に立ち向かうために、協調的な研究の取組みが必要である。
報告書によれば、4つの陸地ベースのNETsが、排出削減戦略と競争できるコストで、大規模に配備しうる段階にある。これらの技術には、森林の再生、森林管理の変更、そして土壌の炭素貯留を高めるような農業慣行の変更が含まれている。スケール・アップの用意ができている4番目のNETは、「炭素の除去・隔離と組み合わせた生物エネルギー」であり、そこでは、植物または植物ベースの物質が電気、液体燃料、熱を生み出すために用いられ、そこで発生する二酸化炭素は回収され、貯留される。
しかしながら、これらの4つのNETsは、合理的なコストで、意図しない大きな害をもたらすことなしに、十分な炭素を除去することはまだできないと、報告書は述べている。
その他の2つのNETsは炭素を除去する高い潜在的能力を有しており、革命的なものかもしれない。大気中からの直接の炭素除去は、化学的プロセスを用いて、大気から二酸化炭素を回収し、濃縮し、貯留槽に注入する。しかしながら、現在は高コストによる制約がある。
直接大気除去技術を開発する商業的な推進力はないので、低コストの選択肢を開発するには継続的な政府の投資を要する。炭素の鉱物化、即ち、「風化」を加速して大気中の二酸化炭素と、反応性のある鉱物の間で化学結合を生成することには現時点では基本的な理解が不足している。
委員会は、沿岸のブルーカーボン(海洋生物に固定される炭素)についても検討した。具体的には、感潮沼沢地のような沿岸生態系の生きている植物や堆積物に貯留される炭素を増加させるように土地の利用や管理を改めることなどを検討した。沿岸のブルーカーボンは炭素除去の潜在能力は比較的限られているが、継続的な探求、支援に値すると委員会は結論付けた。
NETsは今世紀におけるネットの排出削減の約3割を提供すると期待されているにもかかわらず、十分な公的投資を受けていないと、委員会は判断した。既存の陸地ベースのNETsを改善し、直接大気炭素除去や炭素鉱物化を速やかに発展させ、生物エネルギーと二酸化炭素除去を可能とする研究を進展させるために、相当の研究投資ができるだけ早く実現される必要があると、委員会は述べた。
報告書はNETsの研究を追求すべき複数の理由を提示している。第一に、州、地方政府、企業および世界中の国々は、それぞれのネットの炭素排出を削減するために、現在、相当程度の投資をするとともに、その額を増やすことを検討している。そのような取組みのうちのいくつかは、既にNTEsを対象として含んでいる。このことは、もし知的財産権が米国企業に保有されれば、NETsの発展は米国経済に益することを意味している。第二に、気候変動による被害の拡大に伴い、米国が将来、気候変動抑制の取組みを増強していくことは避けられない。第三に、炭素貯蔵・隔離の新規投資に税額控除を行う、新しい45Qルールのように、米国は既に、NET研究への新たな投資を有利にするために、多くの取組みを行っている。
[DW編集局+JSTワシントン事務所]