[本文]

国・地域名:
米国
元記事の言語:
英語
公開機関:
全米科学・工学・医学アカデミー(NASEM)
元記事公開日:
2019/03/06
抄訳記事公開日:
2019/05/17

科学技術における米国のリーダーシップ維持に関する全米科学アカデミー会長の声明

"Maintaining U.S. Leadership in Science and Technology"

本文:

3月6日付け、全米科学・工学・医学アカデミー(NASEM)による標記記事の概要は次のとおりである。

マルシア・マクナット(Marcia K. McNutt)全米科学アカデミー会長による下院科学・宇宙・技術委員会での声明
序文:全米科学アカデミー(NAS)は150年以上前に、全米工学アカデミー(NAE)は1964年に、全米医学アカデミー(NAM)は1970年に設立された。毎年、約6,000人のアカデミー会員や有志が会議その他の活動に参加している。アカデミーのアドバイスの対象は多岐にわたり、2018年だけでも、高速道路の最新化、投票システムの安全確保、量子計算の将来性評価、電子タバコの健康への影響、炭鉱粉塵への暴露による肺疾患など、様々な問題をカバーしている。

アカデミーの調査は法律に由来することが多く、昨年の議会では240法案や決議がアカデミーの調査に関連している、また26の新しい調査が最終的に法令で義務付けられた。第115回議会だけでも、アカデミー会員や専門家ボランティア、スタッフが200近いブリーフィングに参加している。非政府組織として議会でこのようなプレゼンスがあることは、アカデミーのネットワークが非常に幅広い政策関連項目にわたっており、従来の「科学政策」の域を超えていることを裏付けている。

強力な米国研究界:15年以上前に、アカデミーは「強まる嵐を超えて」と題する報告書を提出し、米国の競争力強化のために研究の重要性を強調した。2019年にそのメッセージはこれまで以上に共鳴する。国家科学審議会による最新の科学工学指標では米国の論文数は2014年から低下傾向にある。同時期の中国の論文数は急激に増え続け、2016年には米国を抜いた。
産業技術では、先進技術が必要とされる製造業(自動車部品、化学製品、電子機器)で中国の製品が2008年に米国を、2011年にEUを抜いた。さらに航空、電子通信などのハイテク産業でも中国が台頭してきている。米国では連邦政府支援の研究は米国総研究開発費の約1/4を占めている。これまでの研究のリターンの実績と将来のSTEM労働力の保持の観点から、米国は研究界に政府資金を十分に投入することにより、より報われることは疑いの余地もない。

科学技術工学数学(STEM)人材:何十年もの間、世界中のトップクラスの学生が米国の大学に留学し、そのうち有能な人材は米国に残り、研究界や経済を潤してきた。米国は国内の人材育成を考える必要がなく、他の国々に米国と競争するリソースも無かった。2019年の今、状況は異なる。世界的な競争となり、優秀で聡明な研究者は国を問わず、安定した資金、よりよい施設、高額のキャリアが約束されている国を目指す。米国の研究者の高齢化が進み、米国生まれでSTEM分野を専攻する学生の数は十分ではない。ダイバーシティも重要で、従来の研究大学を超えてSTEM人材のパイプラインを開拓し、研究コミュニティに人種的多様性を反映すべきである。また、非米国籍の学生や労働者が米国の競争力において果たしている重要な役割を認識する必要がある。米国の大学はまだ国際的な人材が集まるところであるが、最近その数は初めて減少し、2016年から2017年にかけて6%減少した。米国で科学・工学を専攻する大学院生の1/3は外国人であり、分野によっては大多数を占める。非米国籍の研究者によるイノベーションへの貢献を減少させるような政策的措置については、その長期的な影響を慎重に考慮する必要がある。

国際協力:伝統的な大型国際協力には、国際宇宙ステーション、ITER核融合研究、CERN高エネルギー研究、北極・南極研究などがあり、いずれも一国ではなしえない研究を多国間協力の下に進めている。昨今ではゲノム編集に対する倫理規定が国際的問題となっている。昨年には中国の研究者が国際規定に反し、ゲノム編集をヒト初期胚に適用したと発表した。アカデミーは諸外国の機関と共同で国際委員会を作り、厳しい基準や規則を定めるために取り組んでいる。国際協力は競争と同様に重要であり、国際的な問題を取り上げることができる。しかしながら、米国が科学技術で競争力を失えば、国際協力も振るわなくなる。

結論:150年以上もの間、全米アカデミーは多くの問題について、国家・世界に貢献してきた。連邦政府のSTEM人材を含めた研究に関する投資決定に、ガイダンスを提供することもできる。しかし、他の国々も米国と同様に多くの問題を解決しようとし、競争力を細かに調査し、将来を見据えて、研究界に大きな投資をしようとしている。

米国はいくつかの分野で、リーダーシップを失ったが、多くの分野でトップの座にあり続けている。下院科学・宇宙・技術委員会は、米国が科学技術におけるグローバル・リーダーシップを他国に引き渡さないことを確保する政策を策定することができる。米国の経済競争力、国家安全保障、健康や福祉は非常な危険にさらされている。一緒に、強固な米国研究界を支援し維持していかねばならない。

[DW編集局+JSTワシントン事務所]