[本文]

国・地域名:
米国
元記事の言語:
英語
公開機関:
米国科学振興協会(AAAS)
元記事公開日:
2019/03/11
抄訳記事公開日:
2019/05/22

ホワイトハウスの2020年度科学技術予算案は研究プログラムの規模縮小を求めている

New White House Science Budget Seeks Familiar Cuts

本文:

2019年3月11日付の米国科学振興協会(AAAS)による標記発表の概要は以下のとおりである。

本日発表された2020会計年度のホワイトハウス予算要求は、政府全体で研究プログラムの規模縮小を再度試みている。詳細の大部分は来週まで待つ必要があるが、現時点でも非国防裁量支出への削減勧告を始めとして特記すべきことは多くある。議会による2年間の支出上限引き上げは研究開発費にも増をもたらしたが、この取り決めは2020年度に期限切れとなり、現行の法律では上限を段階的に下げることが義務付けられている。これは、今年の非国防裁量支出は9%(540億ドル)減少し、国防支出については11%(710億ドル)減少することを意味する。トランプ政権は、非国防支出について今年度は粛々と削減し、後年度においてより大幅に削減する意向と考えられる。一方で、現政権は国防プログラム(主に研究以外)に多額の資金を追加し、その過程で上限を回避する考えとみられる。

科学技術支出は全体的な裁量予算に左右される傾向があり、非国防支出減少に伴ってほとんどの研究プログラムも減少するため、上記のことは重要である。

● 国立衛生研究所(NIH)
予想される予算額は、ホワイトハウスによると330億ドル、また保健福祉省(HHS)によると344億ドル。いずれにせよ、2019年度の水準を少なくとも12%下回る。この厳しい状況の中で、オピオイド研究への10億ドルの投資、NIH施設の近代化への投資、小児がん研究に関する複数年イニシアチブの初年度に5,000万ドルの投資が掲げられている。NIHの次世代研究者イニシアチブ向け予算は1億ドルの見込み。

● エネルギー省(DOE)
DOEの基礎研究資金支援機関である科学局の予算は、2019年度から約16.5%減の55億ドルの見込み。ただしエクサスケール・コンピューティング・プロジェクト向けの資金を5億ドルに倍増し、量子情報科学への資金を1億6,900万ドルに増やすため、科学局内の他のプログラムは合わせて23%の削減となる見通し。予算には、人工知能(AI)と機械学習(ML)向けの7,100万ドル、産業用マイクロエレクトロニクス向けの2,500万ドルが含まれている。一方で、深地下ニュートリノ実験と希少同位体ビーム施設向けの資金は減額している。

応用面では、エネルギー効率・再生可能エネルギーに関する研究開発費を70%以上削減し、エネルギー高等研究計画局(ARPA-E)を再び廃止している。原子力・化石エネルギーの研究開発プログラムは20〜40%程度の削減となる見込み。予算要求では、新たな多目的高速試験炉(Versatile Fast Test Reactor)と新設のサイバーセキュリティ局は30%以上の大幅増とし、エネルギー貯蔵技術と材料製造技術における数百万ドルのイニシアチブを立ち上げる。

● 国防総省(DOD)
基礎科学の資金が2億800万ドル(8.2%)削減され、23億ドルになる見込み。応用研究や試作機開発を含むDODの科学技術全般のファンディングは9億1,600万ドル(10.7%)減少する。この状況においても、国防高等研究計画局(DARPA)は3.8%増加して36億ドルとなるが、それ以外の3つの軍事部門はいずれも研究が削減対象になる。DODの予算文書によると、サイバーセキュリティに96億ドルの投資を行う予定である。これには、新たな500万ドルの共同基礎科学イニシアチブも含まれる。

● 商務省(DOC)
国立標準技術研究所(NIST)はおよそ30%の削減を受けることになり、製造技術拡大パートナーシップ(Manufacturing Extension Partnership)は、米国海洋大気局(NOAA)の高等海洋研究大学プログラム(Sea Grant)と同様に、廃止予定である。

● 米航空宇宙局(NASA)
全体予算は、2019年度の水準を2.2%下回り、210億ドルになる。惑星科学プログラムはおよそ6%の削減を受け、エウロパミッションは包括的予算で提示された7億4,000万ドルに対して6億ドルにまで減額された。地球科学の資金は全体で7.8%削減されることになる。併せて地球観測衛星(PACE と CLARREO Pathfinder)の2つのミッションは改めて廃止が予定されている。広視野赤外線サーベイ望遠鏡(WFIRST)への投資は中止し、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の完成を優先させることが提案されている。

探査技術予算は、9.4%という大幅増を獲得している。これは月面上の探査に必要な新しいテクノロジーの創出に拍車をかけることを目的とした新しい「月面イノベーション・イニシアティブ」への資金支援を含む。一方、最近創設された商用低周回軌道(LEO)開発予算は、2019年度の4,000万ドルから1億5,000万ドルまで増加する見込み。

● 国立科学財団(NSF)
およそ12%削減されて71億ドルになる見込み。

● 農務省(USDA)
競争助成金プログラムである「農業・食料研究イニシアチブ」は、2019年度に比べ20%増の5億ドルとなる。他方で、農業研究局の非施設資金はおよそ12%減の見込み。

● 環境保護庁(EPA)
科学技術予算は2億4,300万ドルの削減、すなわち19年度の水準を34.5%下回る。国土安全保障を除くすべての主要な科学技術プログラムは、2019年度の水準を少なくとも30%下回る削減の対象となる。地球変動研究プログラム(気候変動の影響と適応策の対応をより深く理解するための複数省庁による取り組み)に対するEPAの約1,900万ドルの拠出を止めるよう改めて提案している。

過去の年度では、トランプ政権の予算教書による提案は議会で概ね覆され、研究開発機関の予算は増となっている。下院を民主党が握っていることからも、今回の削減提案を回避する圧力は大きいと見込まれる。

[DW編集局+JSTワシントン事務所]