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- 国・地域名:
- 米国
- 元記事の言語:
- 英語
- 公開機関:
- 全米科学・工学・医学アカデミー(NASEM)
- 元記事公開日:
- 2019/05/07
- 抄訳記事公開日:
- 2019/07/02
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NASEMが研究の再現性と複製可能性向上のために、研究の厳密性を透明性の改善方法を提案
- 本文:
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2019年5月7日付け、全米科学・工学・医学アカデミー(NASEM)による標記記事の概要は次のとおりである。
NASEMの新しい報告書では、科学研究の再現性(reproducibility)と複製可能性(replicability)の向上のために、研究者、学術機関、ジャーナル、研究資金配分機関が厳密性と透明性の強化を支援する方法を提案している。
再現性と複製可能性の定義:再現性と複製可能性はよく区別なく使われがちであるが、各々違った概念である。再現性は同じ入力データ、計算ステップ、方法、コード、分析条件からいつも同じ計算結果を得ることをいう。複製可能性は同じ科学的質問に答える複数の研究(各々はそれ自体のデータを持っている)からいつも同じ結果を得ることをいう。
再現性:研究結果が膨大な量のデータを使い複雑な計算プロセスから生まれるとき、科学論文でその方法が書かれているセクションは、他の人がその結果を再現するのに必要な情報を伝えるのには不十分であり、データ、コード、モデル、計算分析に関する付加的情報が必要である。十分な付加情報があり、別の研究者が最初の人と同じ方法を使うと、多くの場合、正確に同じ結果(もしくはビット単位の複製)を得ることが期待される。
複製可能性:前の研究結果を確かめるには同じ方法を使い、新しいデータを得、元と同じ結果が得られるかを見てみることである。複製が成功しても、元の研究結果が正確であったとは保証できないし、また一回複製に失敗した場合でも、元の主張に反論できるとは限らない。
非複製可能性は、自然界における本質的な変動や複雑性、現在の科学技術の範囲、そして現行の技術の限界によることもあり、その場合、複製の失敗が新しい現象や知見の発見に繋がることもある。一方、知識の不足、ゆがんだ動機、いい加減さ、思い込み、などの原因による場合は、訓練、メンタリング、出版前の度重なる実験、厳しいピアレビュー、分析や結果をチェックするツールの活用、報告における透明性の強化を通じて、研究デザインや方法論を改良することを目的としたイニシアチブや実践により、非複製可能性の要因を最小限にすることができる。
欺くことを意図して故意に好ましくない研究行為をする研究者は不正または詐欺を働いていることになる。正直な間違いと意図的な不正行為との違いは見分けるのが難しい。不正記述や詐欺の形をとる研究不正は、割合的には少ないが、科学分野での継続的な懸念となっている。
研究の再現性と複製可能性の改善:
- 研究者は報告した結果がどのように得られたかについて明確で具体的で完全な記述をすべきである。
- ファンディング機関はすべての分野において再現性を支援するオープン・ソースで使用可能なツールやインフラの研究開発に投資することを検討すべきである。
- ジャーナルは倫理的、法的に可能な限り、計算に基づいて主張する発表(内容)の計算再現性を確認することを検討すべきである。
- 国立科学財団(NSF)はNSF支援の研究に使われるデータやコードといったデジタルなものの共有と利用を促進するための措置を取るべきである。これには信頼性のある公開レポジトリのための一連の基準の開発が含まれる。
科学への信頼:再現性と複製可能性は科学知識への信頼を築くのに役立つが、研究結果への信頼を得る唯一の方法ではない。科学的エビデンスに基づいて個人または政策上の決定をするにあたっては、たとえいくら有望なものでも、一つの研究結果に基づいて重大な決断をするのは用心したほうがよい。同様に、単一の新しい従来と相反する研究を、過去の多くのエビデンスで支持されてきた科学結果に対する反論として利用すべきではない。
[DW編集局+JSTワシントン事務所]