[本文]

国・地域名:
米国
元記事の言語:
英語
公開機関:
大統領府
元記事公開日:
2019/08/30
抄訳記事公開日:
2019/09/11

2021年度大統領府研究開発予算優先事項

Fiscal Year 2021 Administration Research and Development Budget Priorities

本文:

2019年8月30日付で大統領府は「2021年度研究開発予算優先事項」を公表した。その概要は以下のとおり。

● 研究開発予算上の優先事項

1. 米国の安全保障

  • 高度な軍事能力
    攻撃および防御用の極超音速兵器能力、強靱な国家安全保障宇宙システム、最新かつ柔軟性のある戦略・非戦略核抑止能力など、新たな脅威への対応と今後の米国の安全保障に資する高度な軍事能力を提供するための研究開発に投資すべきである。
  • 重要インフラのレジリエンス
    地上における異常事象、サイバー・電磁パルス攻撃、サプライチェーンの脆弱性の悪用など、自然災害や物理的脅威に対するレジリエンスを向上させる重要インフラ研究開発への投資が必要である。2019年の国家宇宙天気戦略および行動計画に従って、宇宙天気研究開発への投資を優先すべきである。
  • 半導体
    関係省庁は、必要に応じて産業界・学界と協力して、「情報通信技術およびサービスのサプライチェーン保護に関する大統領令」に従い、今後のコンピューティングおよびストレージのパラダイムに必要な信頼性・確実性のあるマイクロエレクトロニクスに対して、政府全体のアクセスを可能にする投資を優先する必要がある。
  • 戦略鉱物
    優先事項として、リサイクル・再処理技術の開発、代替材料の特定、戦略鉱物の抽出・分離・精製・合金化における新規および改良プロセスの開発などがある。

2. 「未来の産業」における米国のリーダーシップ

  • AI、量子情報科学(QIS)、コンピューティング
    「人工知能における米国のリーダーシップの維持に関する2019年大統領令」および「国家人工知能研究開発戦略計画」2019年更新版と合致する基礎および応用研究投資を優先する必要がある。2018年の「国家量子イニシアチブ法」および2018年の「国防権限法」に沿って、基盤的なQISを推進し、人材の育成・強化を図り、産業界を引きつけ、QISを支えるインフラを提供する研究開発を優先するとともに、インテリジェンス、国防、民間の取り組みが相乗的に成長できるよう関連活動を調整すべきである。コンピューティングに関しては、持続可能かつ相互運用可能なソフトウェア、データの保守・キュレーション、適切なセキュリティと併せて、今後の高性能コンピューティング・パラダイム、製造、デバイス、アーキテクチャに必要な研究開発を支援する必要がある。
  • 高度通信ネットワークと自律性
    「国家周波数研究開発戦略」と合致する研究開発を優先することで、高度通信ネットワークの開発・展開を支援する必要がある。運用基準、統合方式、交通管理システム、防衛/セキュリティ運用の開発に重点を置き、地上、空中、海上の自律走行手段の展開に対する障壁を低くする研究開発を優先する必要がある。電動の垂直離着陸機および超音速民間航空機を可能にする研究開発を優先すべきである。
  • 先進製造
    国家科学技術会議(NSTC)の報告書「先進製造における米国のリーダーシップに関する戦略」の目標を支援する研究開発投資を行う必要がある。優先事項には、スマート・デジタル製造技術、高度な産業用ロボット工学、特に産業用モノのインターネット(IOT)、機械学習、AIによって実現されるシステムなどがある。

3. 米国のエネルギーと環境におけるリーダーシップ

  • エネルギー
    原子力エネルギー、再生可能エネルギー、化石エネルギーを含む米国のエネルギー資源の安全かつ効率的な活用にとって有望な、初期段階の革新的な研究と技術に投資すべきである。連邦政府が資金提供するエネルギーの研究開発は、(エネルギー生産・貯蔵技術の後期段階の研究、開発、商業化に資金を供給する)民間部門への依存度の増加を引き続き反映すべきである。先進的な原子炉技術のさらなる開発や、多目的の先進的試験炉による米国の高速中性子照射能力の再確立など、原子力エネルギーの研究開発に投資する必要がある。
  • 海洋
    米国の排他的経済水域の資源を効率的にマッピング、調査、特性把握するべく、新規・新興技術や共同アプローチを優先すべきである。天然資源と人間活動を特徴づけるデータの処理と公開、および海洋システムの変化に対する理解増進と効果的な対応を支援する研究開発にも焦点を当てる必要がある。
  • 地球システムの予測
    複数の現象、時間・空間スケールにわたって、地球システムの予測可能性の定量化に資する研究開発を優先する必要がある。この領域での進歩を加速させるには、研究とモデリングの取り組みに関する各政府機関のリソースの戦略的調整と活用が必要である。さらに、理論と実践の両面において予測可能性の手法と限界がどのように多様なステークホルダーに情報提供できるか、強調する必要がある。また、AIおよび適応型観測システムの応用を探求して、予測スキルを向上させるとともに、すべてのスケールで計算モデルのパフォーマンスと空間解像度を大幅に向上させる戦略を検討する必要がある。

4. 米国の保健とバイオエコノミーにおけるイノベーション

  • 生物医学
    オピオイド危機との闘い、感染症の迅速な検知と封じ込め、薬剤耐性、慢性疾患の予防と治療、遺伝子治療、神経科学、医療対策と公衆衛生上の備え、HIV/ AIDSの根絶、さらには米国の高齢者や障がい者の自立、安全、健康の向上を目的とした研究開発投資を優先する必要がある。
  • 退役軍人の健康
    「退役軍人の活力支援と自殺防止のための国家ロードマップに関する大統領令」に合致する研究開発投資を特定する必要がある。これは、データの共有・統合を活用して既存の研究やデータセットから脳の健康と自殺に関する新たな識見を引き出すこと、迅速な知識移転と実用の機会を探ることなど、省庁間の密接な取り組みに焦点を当てるものである。
  • バイオエコノミー
    遺伝子編集を使用して開発された製品に関し、微生物・植物・動物の安全性と有効性を迅速に確立し、バイオテクノロジー製品の採用と社会的責任のある使用を促進するべく、証拠に基づいた基準と研究を優先する必要がある。さらに、バイオテクノロジー、オミクス、科学的コレクション、バイオセキュリティ、データ分析によって、ヘルスケア、医薬品、製造業、農業など複数のセクターにわたる経済成長を促進する研究開発に焦点を当てる必要がある。

5. 米国の宇宙探査と商業化
月と火星の現地資源利用、極低温燃料の貯蔵と管理、宇宙空間での製造と組み立て、宇宙関連の高度な動力・推進能力を優先事項とすべきである。また、宇宙での商業活動の産業基盤を確保し、政府目標を満たし宇宙経済を促進する民間セクターの進歩を大幅に加速する活動を優先すべきである。さらに、広範な応用可能性を持つ先進材料、付加製造、機械学習との連携の機会を探索すべきである。

● 優先すべき横断的取組

1. 多様性があり、高度なスキルを持つ米国の労働力を育成・活用する
STEMリテラシーの強力な基盤の構築、STEMの多様性・公平性・包摂性の強化、単科大学卒業者や四年制大学の学位を必要としない技能職の労働者を含めたSTEM労働力の養成を優先すべきである。

2. 米国の価値観を反映した研究環境を創出・支援する
研究環境に関連する優先度の高い次の4つの領域には、格段の注意を払う必要がある。

  • 連邦政府資金による研究の事務負担を軽減すること
  • 研究の厳密性、公正性の向上を図ること
  • 安全で包摂的な研究環境を創出すること
  • 米国の研究資産を保護すること
    関係省庁は、その研究開発投資により推進している内外の研究環境が上記4項目の施策に対処することを確保するとともに、NSTCの研究環境に関する合同委員会(JCORE)を通じて他省庁と連携・協働する必要がある。

3. ハイリスク・ハイリワードな変革的研究を支援する
関係省庁は、自らの研究開発投資および支援対象コミュニティにおけるリスク負担を支援する必要がある。また潜在的に変革的な研究のリワード、リスク、および失敗から得られる便益について、審査プロセスで十分に検討するようにするべきである。

4. データの力を活用する
「大統領の政権運営アジェンダ(PMA)」および「連邦データ戦略」に基づき、データのアクセシビリティとセキュリティの改善、AI その他の新興技術の活用、データのスキルを有する労働力の育成などを反映させた投資を行うべきである。

5. 戦略的な多セクター連携を構築・強化・拡大する
R2機関(※)、伝統的黒人大学(HBCU)、コミュニティ・カレッジ等、科学技術能力を構築しようとする機関を関与、オポチュニティ・ゾーンのようなイノベーション経済に向けた地域協働の推進、研究インフラの支援、技術移転の促進など、多セクター連携を促進・強化する投資や方針を優先すべきである。関係省庁は協力して、既存の連携を活用し、新しい連携を創出し、ベストプラクティス、データ、ユーザー施設などのリソースを可能な限り共有すべきである。また、成功の尺度を定義し、関連する研究開発投資によって連携の数、種類、質がどのように向上するかを説明するとともに、規制等の障壁を減らし、インセンティブを調整して多セクターの関与を促進する方法を検討する必要がある。
※カーネギー教育振興財団による、博士号授与大学の研究活動度分類(R1:とても高い、R2:高い)

[DW編集局+JSTワシントン事務所]