[本文]

国・地域名:
フランス
元記事の言語:
フランス語
公開機関:
高等教育・研究・イノベーション省(MESRI)
元記事公開日:
2019/09/23
抄訳記事公開日:
2019/10/17

「研究に関する複数年予算法案」に関する作業グループの答申

Restitution des travaux des groupes de travail pour un projet de loi de programmation pluriannuelle de la recherche

本文:

2019年9月23日付高等教育・研究・イノベーション省(MESRI)の標記発表の概要は以下のとおり。

今年2月、首相は研究に関する複数年予算計画法制定の検討開始を指示した。その目的は研究の可視性、自由、手段を再構築することである。検討推進の目的で設置された3つの作業グループが、2019年9月23日首相に報告書を提出した。フレデリック・ヴィダルMESRI大臣は、この報告書の結論に基づいて、複数年研究計画法の骨子を首相に提案する。法案は2020年中に採択、2021年始めに施行される予定である。

各作業グループの結論の概要を以下に記す。

研究の資金支援に関する作業グループ

欧州研究会議(ERC)議長の ジャン・ピエール・ブルギニョン(Jean-Pierre Bourguignon) 氏が2019年5月に行ったストックホルムでの講演の中で、欧州における研究の遅れの原因を2つ挙げている。

  • 資金支援が少ないこと:
    「範囲、予算、期間が限定され、グループ又は個人が研究活動を行うために割り当てられる資金」は、低調なままである一方、その増加は往々にして「基盤的経費による財政措置の急激な減少」につながる。
  • 資金の分散:
    「米国における研究に対する連邦政府の財政措置は、最も研究集約的な施設に重点的に投入されている」。

本作業グループは上記の説明はフランスにとって有効であると考え、自らの問題として捉える。本報告書に盛られた提案には、このような障害を避ける狙いがある。

また一方で、フランスは研究開発支出への投資が経済的ライバル国に比べて大幅に少ない。2016年のフランスの研究開発への投資額は、ドイツより426億ユーロ少ない。研究への財政措置のレベルは、フランスでは、2014年のGDPの2.28%から2017年の2.19%(推定)まで着実に減少しており、韓国、日本、ドイツ、米国に大きく後れを取っている。とりわけ他の先進国との重要な違いは、フランスでは産業界への財政措置の割合が少ないこと、それも技術集約型でない業界に向いていることである。

したがって研究への公的な財政措置を是正して、1%台に引き上げ、主要研究国と肩を並べられるようにすることが、フランス政府の責任である。複数年研究計画法で定めるべき有利な枠組みの下で民間セクターの寄与が2%に近くなると仮定すれば、2000年3月リスボンの欧州サミットで設定されたGDPの3%目標の達成に資することになる。

公的研究予算の増額は、プロジェクトに対する財政措置のみならず、研究機関や大学の研究室に割り当てられる基盤的予算に関しても行われるべきものである。このような基盤的予算が過去30年間にわたって大きく損なわれてきた。同時に、科学技術的性格の公的機関(EPST)でも大学でも、国の補助金に占める人件費の比率は着実に増加しており、それが彼らの窒息状態をもたらし、高レベルの研究に不可欠な独自の研究方針の完全な展開を妨げている。

この追加的な資源は、複数年に亘る視点で判断する成果の基準に応じて配分され、また研究方針の展開に向けられるプロジェクト応募予算の増額を通じて配分されうるであろう。いずれにしても本作業グループは、複数年に亘る段階的な財政措置のスケールアップが必要であることを全面的に認識している。

研究の雇用・キャリアの求心力に関する作業グループ

  • OECD加盟国およびフランス公務員の平均給与と比較して、全ての公的研究要員の給与を手当制度面から見直すこと。
  • 国際的に競争力のある雇用条件のレベルを考慮しつつ、研究の正規雇用を再活性化すること。具体的には、公的研究機関への予算手当を着実に行い、プロジェクト採用研究人員には無期限雇用の提案、ポスドクには公的研究者としてのキャリア形成の改善を促すような契約とするなど、研究の契約採用における待遇改善を図ること。大学研究者の雇用手続きを国際的なベストプラクティスに近づけること。
  • 博士号を再評価すること。
  • 大学教職研究者へのキャリア開始時とその後の発展について改善を図ること。
  • 研究雇用の魅力と有効性の向上を図るべく、人事制度を刷新すること。具体的には、研究者の採用に関する予見可能で有効な管理方法を整備し、流動性を促進する制度の増大、大学教職研究職の業務負担の最適化、専門的な評価を可能とする手続きを定め、その評価制度を人事制度の有効な要素とするなど。
  • 研究計画法の主要目的の達成を追跡するべく、「複数年の目標と手段に関する協定」を定めること。

連携研究とイノベーションに関する作業グループ

行動が求められる3つの領域に関する方策は次のとおりである。

  • 公的研究に由来する発見に基づいて明日の市場に画期的変化を生み出す、フランス独自の世界をリードする企業を創出すること。
    – 主要な社会的課題に対処するフランスの戦略を策定・実施する。施策としては首相直下に戦略策定室を創設し、社会課題解決型研究を長期(10年)に支援する運営プログラムを設置すること。
    – Horizon Europe の欧州戦略策定に影響を及ぼし、参画する。
    – deep tech(最先端の研究成果)による新興企業が一層出現し、中堅企業にまで成長するために有利な環境を創出する。5年をめどに年500のスタートアップ創出を目指す。
  • 官と民間、官と官、官と市民社会の間の相互作用の規模、深さ、継続性の大幅な向上を図ること。
    – 実績のある橋渡しプログラムを拡充する。(CIFRE制度、ANRの企業と大学の講座支援プログラム、LabCom、カルノ機関、技術研究所など)
    – 社会的変革に動機づけられるイノベーション開発に、市民と地域を巻き込むための実験的研究を展開する。
    – 地方と国の戦略の相乗効果の発揮と、研究開発型中小企業に対する支援を推進する。
    – 人材養成や教育、変革をもたらす様な人材の流動性などに関する政策を実施し、民間で行われているように公的研究においても人材養成を推奨する。これは博士号取得者の民間での雇用を改善し、官民の間の人材の流動性を円滑化するためである。
  • 短期的には、簡素性、俊敏性、スピードの大幅な向上により、イノベーション当事者に主体的な発展を促すこと。
    – 約15か所の大学イノベーション拠点を構築する。
    – 研究者個人および集団レベルでの橋渡し研究・イノベーション活動を円滑化し、これらの活動が評価し報いられるものとする。
    – 「将来への投資プログラム」(PIA)の一部施策のなかで継続的に実施されている施策については正規の予算とする。

[DW編集局+JSTパリ事務所]