[本文]

国・地域名:
米国
元記事の言語:
英語
公開機関:
国防科学委員会(DSB)
元記事公開日:
2019/12/18
抄訳記事公開日:
2020/02/17

量子技術の応用に関するDSB報告の概要

Executive Summary of the DSB Report on Applications of Quantum Technologies

本文:

2019年12月18日付で公表された米国国防科学委員会(DSB)の標記報告の概要を以下に記す。

量子技術の能力は明らかに向上しており、その多くは国防総省(DOD)に恩恵をもたらす。特に、センシング・システム、計算、通信システムへの応用は、DODのミッション領域において、量子により実現可能となる能力の新時代を創出する。量子科学技術の期待や効果の核となるのは、情報の収集、生成、処理、通信である。このような進歩にとって重要なのは、多くの量子技術領域で広く使用されるコンポーネントである。これらコンポーネントを開発することで、DODに最も永続的な利点がもたらされる可能性がある。

● 量子センシングに関する調査結果
1) フィールド機器を凌ぐ(実験室での)量子センサーの性能実証試験が多数行われており、エンジニアリングや開発への投資に対する大きなリターンの機会を提示している。

  • 時計、加速度計、磁力計は、最も有望な機会になる可能性がある。
  • 慣性応用分野では、量子加速度計が現在の戦略的グレード・ソリューションに比べて大きな優位性を提供する。
  • 分析によると、干渉型光ファイバ・ジャイロ(IFOG)では、より優れた性能が得られることが示され、低温原子ジャイロの魅力を低下させる。

2) ミッション仕様や新規機能に性能を結び付ける厳密な分析が著しく不足している。プラットフォームが異なる量子センサーの各種アプリケーションは、サイズ、重量、出力(SWaP)の考慮事項が異なる。

3) 量子センサーを完成させるにはコンポーネントと実現技術への投資が必要になり、それらがコンピューティングと通信にメリットをもたらす。
4) 量子レーダーは、DODにグレードアップされた機能を提供するものではない。
5) 量子照明は、特定の環境で強化されたイメージングを提供する場合がある。研究はまだ始まったばかりである。
6) 量子電位計を使用すると、DOD内で重要な用途に使用できる小型アンテナが可能になる場合がある(Rydbergアンテナなど)。
7) 原子干渉法に基づく重力計と重力勾配計は、空中トンネル検出、核物質の検出、重力支援航法、測地などの機能を可能にすることができる。
8) DODアプリケーションに必要な動的プラットフォームに対して、感知能力又は適用性を提供する既存の重量センサーは存在しない。
9)原子干渉法による いくつかの方式により、重量感知能力およびDODアプリケーション向けの移植性が実証され、DODアプリケーションの感度が向上する可能性がある。
10) 原子干渉計システムの課題は、SWaP-C(Size, Weight, Power, Cost)を削減し、実験室で実証された最先端の性能をフィールド認定システムに移行することである。動的プラットフォームは特に困難である。

● 量子コンピューティングに関する調査結果
1) 量子コンピュータの構築には、信頼性の高い1~2個の量子ビット・ゲートの開発が不可欠である。2量子ビットのもつれゲートは挑戦的課題であるが、特に重要である。
2) 現在有望な量子ビット技術は、各種のゲート忠実度とコヒーレンス時間を達成したが、どれが最も有望かはまだ不明である。主要な量子ビット技術には次のものがある。

  • 超伝導ジョセフソン接合量子ビット
  • イオン・ベースの量子ビット
  • 半導体ベースの量子ビット
  • トポロジカル量子ビット
  • 光子量子ビット

3) 「断熱量子コンピュータ」の有用性は、アーキテクチャとアプリケーションによって決定され、現時点では推測の域を出ない。
4) 企業では、数十から数百の量子ビットをクラウドで利用可能なシステムに統合して、有用で極めて近い将来の応用領域を見出すべく、技術の実証をしているところである。
5) 産業界は量子エミュレーションを追求していない。
6) 世界的な投資が、量子ハードウェア、ソフトウェア、アルゴリズムの進歩を牽引している。外国の巨額投資により急速な進歩やブレークスルー、技術的サプライズが起こる可能性もある。

● 量子通信・量子もつれ配信に関する調査結果
1) 量子もつれ配送によりテレポーテーションが可能になり、技術革新が起こる。
2) 量子ネットワークにより、分散型量子コンピューティングが可能になる。

  • スケーラビリティとモジュール性を提供する。
  • リモートの安全な量子コンピューティング(ブラインド量子コンピューティングなど)が可能になる。

3) 量子もつれ配送の最新技術は、実験室での概念実証、ポイント・ツー・ポイント実験に限定されている。最も先進的な実験では、数キロメートルにわたる量子もつれ配送が実証された(デルフト工科大学で)。
4) もつれ光子は現在、1秒あたり数十キロビットで生成・配信できる。
5) メモリは現在、10ビット/秒で絡み合うことができる。
6) 原則として、量子鍵配送(QKD)により自然情報理論(シャノン)の暗号化セキュリティが提供される。QKDシステムは、認証鍵交換をサポートしていない。
7) QKDには、DODミッションでの使用に十分な機能又はセキュリティが実装されていない。本タスクフォースは、国家安全保障局(NSA)のQKD認証の評価に同意する。
8) 外国の関係機関によるQKDの開発と利用を把握・追跡する必要がある。

[DW編集局+JSTワシントン事務所]