2020年1月23日付欧州委員会（EC）の発表では、欧州議会（EP）の産業・研究・エネルギー委員会（ITRE）におけるシムソン（Simson）欧州委員の標記冒頭演説の内容を報じている。概要は以下のとおり。

● 公正移行基金（Just Transition Fund）について

全加盟国の中で最も影響を受ける地域と人々の公明かつ公正な（エネルギー）移行を確保するべく、ECは先ごろ、「公正移行メカニズム（JTM）」と「グリーン・ディール投資計画」を提案した。その中の「公正移行基金」について、いくつかの側面を述べる。

• 　本基金は、エネルギー移行の準備に際し最も困難な課題に直面する人々に特定の援護を提供するものである。移行地域のイニシアティブにおける石炭に関する経験と専門知識を取り入れた上で、本基金を設立した。
• 　資金は、これらの地域でのクリーン・エネルギーへの投資、労働者が新しいスキルを学び、企業が雇用機会を創出する目的で使用される。

● 欧州グリーン・ディールにおけるエネルギー関連要素

• 　「エネルギー効率優先」は、クリーン・エネルギー移行において重要な原則である。それを実際面で確実に適用したい。加盟国に対し、具体的なガイドラインのほか、あらゆるレベルの政策立案に組み入れる場合の有用なツールを提供する予定である。
• 　明らかに着手すべき対象として、建物のエネルギー効率のさらなる改善がある。これは、EUレベルと国家レベルで共同で取り組む必要がある。それだけでは不十分で、現在の不十分な改修率を3倍にしようとするなら、「改修の波」を引き起こす必要がある。それには、政策立案者、市民、産業界、金融機関による、欧州レベルから地方レベルまでの共同行動が必要である。
• 　改修イニシアティブに公営住宅（social housing）を含めて、エネルギー貧困対策に資するようにしたい。最新の数字によると、EU内で最大5,000万人が家を適切に暖房できないでいる。子供が学ぶ家、病人が治療を受ける家など、最も弱い立場にいる消費者が住んでいる家が優先される必要がある。
• 　家電製品のエネルギー効率を改善する機会でもある。循環型経済における製品の持続可能性を確保するべく、エコデザインやエコラベリングに向けた新規の、革新的な、複数年ごとの作業プログラムの提案を目指している。

● 2020年エネルギー政策の優先課題

• 　スマート・セクター統合戦略
  2020年6月までにスマート・セクター統合戦略を提示する。電力、冷暖房、輸送、ガス、工業、農業各部門の強力な統合を促進するもので、再生可能エネルギーをエネルギー部門の全ての部分への取り込みを簡便かつ効率的にする。目的は、スマートで柔軟かつ回復力のあるエネルギー・システムを構築することにより、可能な限り低いコストで炭素中立を達成することである。このようなスマートシステムでは、電気を最大限に活用する必要があるが、脱炭素ガスにもある程度依存する。
• 　最新の安全でスマートなエネルギー・インフラ
  グリーン・ディールを実現するには、将来を見据えた、最新の安全でスマートなエネルギー・インフラが鍵となる。目的に適ったインフラが、EUエネルギー市場のバックボーンであり、再生可能エネルギーの大規模展開の前提条件であり、安定供給を保証する。欧州の気候中立目標とグリーン・ディールの目標との一貫性を確保するため、ECは、今年末までに提案をするべく、TEN-E規制を通じてエネルギー・インフラ規制枠組みの見直しを既に開始している。この更新された枠組により、スマートグリッド、水素ネットワーク、炭素の回収・貯蔵・利用、エネルギー貯蔵などの革新的な技術とインフラの使用を促進し、セクター統合も可能にする。
• 　洋上再生可能エネルギーに関する戦略洋上再生可能エネルギーに関する戦略を提示する予定である。EU全体での洋上風力および海洋再生可能エネルギーの野心的な展開・統合を支援する。この戦略は、エネルギー供給網や市場への影響、海洋空間の管理、産業政策の側面など、この前例のない大規模開発に関連するすべての機会や課題に対処する。
• 　研究・イノベーション（R&I）
  成功に不可欠であるのが、研究・イノベーションである。新しい技術ソリューションのコスト削減、規模拡大、市場での受け入れを実現する必要がある。これに関連して、「クリーン・エネルギーR＆Iの展望」（Clean Energy R&I Outlook）の作成と、民間部門との「クリーン・エネルギーR＆I投資提携」（Clean Energy R&I Investment Alliance）の創設に取り組んでいる。

[DW編集局]