2020年3月18日付で国防科学技術研究所（Dstl）は、標記報告書を公表している。報告書の概要は以下のとおり。

Dstl が公表した報告書は、都市開発の世界的な動向を調査し、都市がどのように進化するかを予測したものである。

国防安全保障分析部門のアナリストは、技術の影響（いわゆる「スマートシティ」など）、気候変動や人口動態の変化、経済統合、インフラ開発など、幅広い要因を検討した。この作業は、承認された将来ビジョンである開発・構想・政策センター（DCDC）の「将来の作戦行動環境（2035年）」および「グローバル戦略トレンド（2050年）」に基づいて構築することを目的とする。どちらも「都市化」を将来の国防が直面する主要な課題の1つとして強調している。この報告書は、これらの将来予測と、（現在の都市に対する理解に基づいた）現在の政策との間のギャップを埋めることを試みている。

この報告書の成果は、英国軍が予測可能な境界領域である将来に、重要課題がどこにあるかを特定するのに役立つ。その結果、可能な選択肢を検討して、それらの課題に対して軽減又はより適切な準備を可能にする。都市戦争や「グレーゾーン紛争」は、国防の優先領域になりつつあり、Dstl は、現在の都市が抱える課題のみならず、近い将来都市に生じる課題をも克服するために、国防がどのように適応できるかについて検討している。

報告書では例えば次のような主要課題について概略以下のように述べている。

● 未来の都市

人間の相互関係の圧倒的部分が都市に移行するにつれて、意思決定者の優先課題も必然的にそれに従う。都市中心間の社会的、経済的、政治的なつながりは、今後も増大し続ける。これにより、局地的な出来事が他の都市に影響を及ぼす度合いが拡大する。その結果、国レベルの政治主体の影響力は、地理的に離れた都市を含む都市の問題にますます投入されるようになる。人口と担い手の両方の観点から、都市がその重要度、つながり、多様性を増すにつれ、戦略的効果のある戦術的方策の可能性がひたすら大きくなる。

● スマートシティ

スマートシティ技術の活用は、経済的・社会的活動にますます影響を及ぼす。スマートシティが存在する文化的背景が、この技術の適用方法に影響を及ぼす。日常のオンライン使用はコンピュータや電話に限定されなくなる。他のデバイスは、「モノのインターネット」を介して益々相互に接続され、広範囲で持続的なデータ収集を活用して、マシンプロセスと人間の意思決定の両方にデータ提供する。これが、都市基盤に機会と脆弱性を生じさせる。国や国以外存在も、相互接続されたオンラインシステムと、それらに依存する基盤プロセスを途絶させることが可能である。

• スマートシティ技術は、英国の軍事活動に機会とリスクの両方をもたらす。これらの技術は、これまでに前例のない情報収集とアクセス機会を可能にする（脅威源や影響力のある広範な集団の、生活様式の把握、特定およびアクセスなど）。
• 敵対者はこれらの技術を悪用して、英国軍や同盟国を攻撃することもできる。これらの脆弱性を理解することが、作戦成功にとって重要である。
• スマート技術への依存度が高まると、重要基盤に分類されるものに変更が生じる（その一部が対象都市と同じ国内にない場合もある）。

● 環境

沿岸都市部の重要性が高まることで、意思決定者の施策が方向づけられる。これらのエリアは、旅行や貿易の拡大の中心となり、敵対的行動や異常気象の影響を被り易くなる。都市化プロセスが続くことで、汚染や廃棄物生成が増大し、都市内の物理的環境が変化する。

• 沿岸都市およびグローバルに接続された都市の増加は、都市での地域活動が国際的な影響を与える可能性を大きくする。1つの都市での活動が、グローバルな波及効果を起こし、英国に戦略的な圧力をかける結果となる可能性がある。
• 都市の拡大により、市街地を分離又はバイパスすることさえ不可能になる場合がある。
• 汚染レベルは英国職員と地元住民に重大な危険をもたらし（人道的危機を招き）、英国の軍事活動をも制限する可能性がある。

● 基盤構造

人口密度の増加に対応するために、都市では、高層住宅が急激に増加し続け、これが多くの人々の生活基盤となる。垂直方向で、階層や区域境界などの変更が生じる。汚染と混雑を緩和したいという願望が、ますます制御された交通管理につながり、多くの都市では、車両の動きを物理的に制限することによって、自転車や徒歩が奨励される。自律型の交通手段が一般的になり、スマート・シティ基盤構造の一部になる。同様に、都市の他の多くのルーチン機能も自動化される。

• 垂直指向と「ビルの谷間」（および地下）の増加は、英国のISTER（情報・監視・目標捕捉・偵察））攻撃・機動能力に厳しい制約を課す。垂直方向の人口集中により、英国と敵対者の両方がアクセスし易くなり、好機と不都合の両方が生じる。
• 交通量の増加は、輸送基盤構造の容量を超え、都市の機動能力に厳しい制約を課す可能性がある。輸送・交通管理システムの代替モデルが、これらを多少軽減する可能性がある。
• 気候変動および沿岸都市拡大により、自然災害による影響が大きくなり、人道・災害救援（HADR）活動への需要が高まる。「水上都市」がより一般的になり、そこでの機動作戦は非常に困難になる。
• 基盤構造はますます相互接続されることになり、その結果サイバー（および実空間）攻撃に対して脆弱になる。

[DW編集局]