[本文]

国・地域名:
英国
元記事の言語:
英語
公開機関:
科学技術会議(CST)
元記事公開日:
2020/07/01
抄訳記事公開日:
2020/10/07

科学技術のムーンショット(壮大な計画)の原則

Principles for science and technology moon-shots

本文:

英国科学技術会議(CST)は2020年7月1日付で標記の首相あて書簡を公表した。本書簡は、英国研究・イノベーション戦略の一環として、壮大な目標指向の研究開発プログラムの創設に関して首相あてに助言を行ったものである。助言の概要は以下のとおり。

● 定義と原則

「ムーンショット」は、非常に野心的な国内または国際的な目標として定義できる。いくつかの科学的、工学的、技術的なブレークスルーを通じて、破壊的なイノベーションまたはソリューションをもたらす。その性質上、多分野に跨る複数の利害関係者による事業であり、学界や産業界からの幅広いパートナーを集めて、全体的に単一の目標に向けて取り組むものである。

上記定義から、ムーンショットを策定するプロセスの指針となるべき次の7項目の主要原則を特定した。

i. 学術・産業研究開発を活性化して、一般市民、学術界、産業界を刺激・喚起すること。ムーンショットの成功は、意欲、集団的な達成感、国の誇りが醸し出す。
ii. 一般市民が共鳴できる社会の重要課題に関与し、その解決を支援すること。
iii. 既存の活動や目標に対する取り組みの単なる「増強」ではなく、真に破壊的で画期的であること。
iv. 基礎となる科学が大きなブレークスルーを達成する段階にある領域に焦点を当てること。
v. 達成に必要な明確な時間枠と、全体的な成功の明確かつ一本化した指標を示して、達成しようとしていることを具体的かつ明確に定義すること。
vi. 英国が世界のリーダーである、または世界のリーダーたる準備ができている領域を活用することで、ムーンショットは、国際舞台で英国の能力を実証するはずである。
vii. ムーンショットは、他の領域に適用され、それ自体が利益をもたらす可能性がある重要な付加的利益を、科学的・技術的進歩から生み出す事が見込まれるものである必要がある。

● ムーンショットを成功させるには

ムーンショットの策定・採択に向けて、上記7項目の中心的な原則に加えて、ムーンショットの実施に関する一般的な助言をいくつか示す。これらは、ムーンショットの成功の基本的な要素と考えられる。

  • ムーンショットを策定して実行する場合に導入される人、プロセス、ガバナンス組織は、成功に不可欠である。ムーンショットのアイデア自体よりも重要である。ムーンショット・チームは、研究者からエンジニアに至るまで、さまざまな分野の幅広い専門的スキルと専門知識を備えている必要がある。開放性、透明性、説明責任を維持しながら、政府や政治サイクルからの最大の独立性を持たせる必要がある。段階毎に必要とされるスキル、どのようなリスクを含み管理されるかという事、最終的な説明責任の在処も考慮する必要がある。
  • 資金調達。適切なタイミングで適切な融資メカニズムにアクセスできることが不可欠な要素となる。それにより、ムーンショットに取り組む人々は、関連するコストに対応し、計画された成果を予定通りに提供できる。
  • 人間の認識、信頼、行動についての理解、そして洞察に必要な「ハード・サイエンス」を超える視点の重要性に注目すること。これにより、ムーンショットについて、一般市民の受容を確保し、社会への影響を最大化する。
  • ムーンショットでの英国の成功は、部分的に国際的な環境と世界における英国の位置に依存する。
  • 評価が重要になる。ムーンショットのパフォーマンス指標は最初から設定される必要があり、ムーンショットのライフタイムを通じて成功、リスク、問題を持続的に監視する必要がある。
  • 直面する挑戦の駆動因子を吟味して理解することが不可欠である。

● ムーンショット・モデルの限界

我々が注目するムーンショット・モデルにはいくつかの問題がある。ムーンショットは、現代社会で最も壮大で複雑な問題(いわゆる「厄介な問題」)の万能薬として提示されることがある。さらなる被害から環境を保護しながら、増加する人口のために良好な生活水準を維持する方法などのこれら課題は、科学だけでは対処できない疑問とジレンマを提起している。
問題の核心が、科学・技術上の発見・イノベーションのみではなく、既存技術、市民の関与・信頼、政府規制を通じた基準施行などに在る可能性がある。この場合は、単なる科学技術のムーンショットではなく、包括的な取り組みの方が適切である可能性がある。

科学技術を通じて取り組む、多くの複雑な問題には、ムーンショットの専門性の高い事前計画された解決方法は適さない場合がある。

[DW編集局]