[本文]

国・地域名:
米国
元記事の言語:
英語
公開機関:
全米科学・工学・医学アカデミー(NASEM)
元記事公開日:
2021/03/25
抄訳記事公開日:
2021/05/18

米国は太陽地球工学研究を慎重に進める必要がある

New Report Says U.S. Should Cautiously Pursue Solar Geoengineering Research to Better Understand Options for Responding to Climate Change Risks

本文:

2021年3月25日付の全米科学・工学・医学アカデミー(NASEM)標記発表によると、新規報告書では、米国が気候変動リスクへの対応オプションをより適切に理解するべく、太陽地球工学研究を慎重に進める必要がある、と述べている。発表の概要は以下のとおりである。

米国の太陽地球工学研究プログラムは、気候対応オプションに関する政策立案者の理解を高めることを目的とすべきである。この研究は、太陽地球工学の技術的実現可能性、社会と環境への影響の可能性、一般の認識、潜在的な社会的反応をより適切に理解するために機能する必要があるが、これらの介入の将来の展開を促進するように設計されるべきではない。太陽地球工学技術が、異常気象、農業、自然生態系、人間の健康にどのように影響するかなど、その多くの側面に関する科学的理解は依然として限られている。現在のところ、太陽地球工学研究向けの統括的な全国的取り組みは存在しない。

報告書では、太陽地球工学研究が社会的に責任のある方法で進展することを確保するように設計された、太陽地球工学研究の管理のための包括的な計画を提言している。例えば、研究者は行動規範に従う必要があり、研究は公共レジストリに記録され、定期的なプログラムの評価とレビューの対象となり、一般市民の関与を可能にする必要がある。

物質を大気中に放出することを含む計画的な屋外実験は、火山噴火などの、実験室での研究、モデリング、または実験機会では提供できない、重要な観察を得られる場合にのみ検討する必要がある。屋外実験は、許可や影響評価などの適切なガバナンスの対象とする必要がある。

● 研究の優先課題

米国の地球変動研究プログラム(USGCRP)は、最初の5年間で1億ドル~2億ドルの範囲の資金で、連邦政府機関と科学分野にわたる太陽地球工学研究プログラムを確立・統括する取り組みを主導する必要がある。USGCRPは、ピアレビューの確保、予算案の調整と要求、進捗状況の定期的な評価、プログラムの目標策定など、研究活動の監督とガバナンスを可能にする。ガバナンスと市民の関与の取り組みには、特にファンディングの確保が必要である。

研究課題には、13の特定研究領域を含める必要がある。これらの研究領域は、次の3つの広範な研究領域に分類できる。

・太陽地球工学研究の背景と目標
太陽地球工学研究の目標と社会的背景、モデリングシナリオの開発、不確実性の下での意思決定のための戦略、すべての国がこの問題に有意義に取り組むために必要な能力など。
・効果と技術的側面
注入された反射粒子の特性とそれらの雲や大気プロセスとの相互作用、起こりうる気候の結果とその後の生態系および社会システムへの影響、これらの技術を進歩させるための技術要件、モニタリングや特定能力の進歩など。
・社会的側面
太陽地球工学に対する一般市民の認識と関与、国内および国際的な紛争と協力、太陽地球工学の効果的なガバナンス、正義・倫理・公平性に関する考慮事項の取り込みなど。

● 研究のガバナンス

太陽地球工学の研究を進めるには、慎重なガバナンスが不可欠である。報告書では、政府、大学、独立機関、研究チーム、その他の諸国の役割を含む、太陽地球工学研究のガバナンス・メカニズムを提言している。

報告書はまた、米国が国際ガバナンス・メカニズムの開発を支援することを提言しているが、より多くの国がこの研究に取り組むことにコミットしてはじめて、堅固な国際ガバナンス慣行と制度が形成されうると指摘している。

[DW編集局+JSTワシントン事務所]