[本文]

国・地域名:
EU
元記事の言語:
英語
公開機関:
欧州委員会(EC)
元記事公開日:
2021/07/14
抄訳記事公開日:
2021/08/26

欧州委員会が気候変動目標を満たすためにEU経済・社会の変革を提案

European Green Deal: Commission proposes transformation of EU economy and society to meet climate ambitions

本文:

2021年7月14日付欧州委員会(EC)の標記発表の概要は以下のとおり。

欧州委員会(EC)はこのほど、温室効果ガス排出量を1990年のレベルと比較して2030年までに少なくとも55%削減するために必要な、EUの気候、エネルギー、土地利用、輸送、課税政策の一括提案を採択した。

● 包括的かつ相互に関連する一連の提案

今回の提案により、今後10年間の温室効果ガス排出量削減に必要な加速を可能にする。それらは次の方策を組み合わせたものである。新しいセクターへの排出権取引の適用と既存のEU域内排出量取引制度の強化、再生可能エネルギーの使用増、エネルギー効率の向上、低排出輸送モードとそれらを支援するインフラや燃料のより迅速な展開、課税政策と欧州グリーンディール目標との整合、炭素漏れを防止するための措置、天然の炭素吸収源を保存し成長させるためのツール、などである。

・「EU域内排出量取引制度(EU ETS)」は、炭素に価格を設定し、毎年特定の各経済部門からの排出量の上限を引き下げている。過去16年間で、電力産業およびエネルギー集約型産業からの排出量を42.8%削減することに成功している。今回、欧州委員会は全体的な排出上限をさらに引き下げ、年間削減率を上げることを提案している。欧州委員会はまた、航空機の無料排出枠を段階的に廃止し、国際航空向けのグローバルな炭素オフセット・削減スキーム(CORSIA)と連携し、EU ETSに初めて輸送排出量を含めることを提案している。道路輸送と建物の排出削減の欠如に対処するべく、道路輸送と建物の燃料分配向けに別の新たな排出取引システムが設定される。欧州委員会はまた、イノベーション基金および近代化基金の規模拡大を提案している。

・EU予算における気候に関する多額の支出を補完するために、加盟国は排出量取引による収入の全額を気候・エネルギー関連プロジェクトに投入する必要がある。道路輸送や建物向けの新制度による収入部分では、脆弱な世帯、零細企業、輸送利用者に起こりうる社会的影響に対処する必要がある。

・「努力分担規則(温室効果ガス削減目標を各国に割り当てる規則)」では、建物、道路および国内海上輸送、農業、廃棄物、小規模産業について、各加盟国に強化された排出削減目標を割り当てる。各加盟国の出発点と能力は多様であることを認識し、これらの目標は、コスト効率を考慮して調整され、一人当たりのGDPに基づいたものである。

・加盟国も大気から炭素を除去する責任を共有しているため、「土地利用・林業・農業に関する規制」では、自然吸収源による炭素除去を、2030年までに3億1,000万トンのCO2排出量相当とする全体的なEU目標を設定している。国家目標では、各加盟国がこの目標を達成するために炭素吸収源を管理し拡大することが要求される。EUは2035年までに、肥料の使用や家畜からの排出などの、農業の非CO2排出も含め、土地利用、林業、農業部門での気候中立達成を目指す必要がある。「EU森林戦略」は、EU森林の質、量、回復力の向上を目指している。伐採とバイオマスの使用を持続可能に保ち、生物多様性を維持し、2030年までに欧州全体に30億本の木を植える計画を立てながら、森林管理者と森林ベースの生物経済を支援する。

・エネルギーの生産と使用はEUの排出量の75%を占めるため、より環境に配慮したエネルギーシステムへの移行を加速することが重要である。「再生可能エネルギー指令」では、目標を引き上げて、2030年までにエネルギーの40%を再生可能エネルギー源から生産するとしている。気候と環境の両方の目標を達成するために、バイオエネルギーの使用に関する持続可能性の基準が強化され、加盟国は木質バイオマス使用におけるカスケード原則を尊重する方法でバイオエネルギーの支援制度を設計する必要がある。

・全体的なエネルギー使用量を削減し、排出量を削減し、エネルギー貧困に取り組むべく、「エネルギー効率指令」では、EUレベルでエネルギー使用量を削減するためのより野心的な拘束力のある年間目標を設定する。これは、国別拠出金の設定方法を示し、各加盟国の年間の省エネ義務をほぼ2倍にする。公共部門は、毎年建物の3%を改修することが求められ、改修の波を推進し、雇用を創出し、使用量と納税者のエネルギーコストを削減する。

・自動車とバンのCO2排出基準が強化されると、新車の平均排出量を2021年のレベルと比較して2030年から55%、2035年から100%削減する必要があり、ゼロエミッション・モビリティへの移行が加速する。その結果、2035年から登録されるすべての新車がゼロ・エミッションとなる。ドライバーが欧州全域の信頼できるネットワークで、車両を充電または燃料補給できるようにするために、改訂された「代替燃料インフラ規則」では、加盟国に対してゼロ・エミッション車の販売に合わせて充電容量を拡大し、主要高速道路上の一定間隔(充電の場合は60キロメートルごと、水素燃料補給の場合は150キロメートルごと)に充電・燃料補給ポイントを設置することを義務付けている。

・「代替燃料インフラ規制」では、航空機や船舶が主要な港や空港でクリーンな電力供給にアクセスできることを要求している。「ReFuelEU 航空イニシアチブ」は、燃料供給業者に対して、EU空港で搭載されるジェット燃料に、e-燃料として知られる合成低炭素燃料など、持続可能な航空燃料の混合レベルを高めることを義務付けている。同様に、「FuelEU 海運イニシアチブ」は、欧州の港に寄港する船舶が使用するエネルギーの温室効果ガス含有量に上限を設定することにより、持続可能な海上燃料とゼロ・エミッション技術の普及を促進する。

・「エネルギー課税指令」の改訂では、エネルギー製品の課税をEUのエネルギー・気候政策と整合させ、クリーン技術を促進し、現在の化石燃料の使用を奨励している時代遅れの免税・軽減税率を撤廃することを提案している。

・新しい「炭素国境調整メカニズム(CMAM)」では、欧州の野心的な気候変動対策が「炭素漏出」を引き起こさないことを保証するために、対象となる製品の輸入に炭素価格を課す。これにより、欧州の排出削減が世界の排出削減に寄与することになる。

上記提案はすべて関連しており、補完的である。

● 社会的に公正な移行

新規の「社会気候基金」は、市民によるエネルギー効率、新しい冷暖房システム、よりクリーンなモビリティに対する投資を支援することを目的として、加盟国に専用のファンディングを提供することが提案された。社会気候基金は、EU予算によって賄われ、建築および道路輸送燃料の排出権取引の予想収益の25%に相当する金額を使用する。複数年財政枠組みの的を絞った修正に基づいて、2025~2032年の期間に加盟国に722億ユーロの資金を提供する。加盟国のマッチング・ファンディングを利用するという提案により、基金は社会的に公正な移行に向けて1,444億ユーロを動員することになる。

[DW編集局]