[本文]

国・地域名:
米国
元記事の言語:
英語
公開機関:
全米科学・工学・医学アカデミー(NASEM)
元記事公開日:
2021/12/08
抄訳記事公開日:
2022/03/10

NASEMが海洋ベースの二酸化炭素除去研究に1億2,500万ドルの投資を提言

New Report Assesses the Feasibility, Cost, and Potential Impacts of Ocean-Based Carbon Dioxide Removal Approaches - Recommends U.S. Research Program

本文:

2021年12月8日付けの全米科学・工学・医学アカデミー(NASEM)による標記発表は以下のとおり。

現在のCO2排出量は自然除去能力を大幅に超えており、炭素排出量の削減だけでは気候を安定させるのに不十分である。2019年のNASEMの報告によれば、気候目標を達成するには、2050年までに毎年約10ギガトンのCO2を除去する必要がある。土壌への炭素貯蔵や森林管理など、いくつかの陸上ベース戦略では、その準備が完了している可能性がある一方、海洋ベース戦略を実施することへのリスク、利点、およびトレードオフについてはなお未知である。

新たな報告書は、潜在的な経済的・社会的影響を含む海洋ベースCO2除去アプローチの包括的な課題を理解するために1億2,500万ドルにのぼる研究プログラムを推奨している。この研究は、海洋ベースのアプローチと他の負の排出技術、および他の気候変動緩和への取り組みとの間のトレードオフや相互作用を体系的に調査するもので、すぐに開始され、今後10年間にわたって継続されるべきである。
本プログラムでは、透明性と市民参加を重視した共通の行動規範の策定・遵守が求められ、社会的影響についての理解、許認可の段階と責任ある研究を可能にする新しい規制環境の設定が必要とされ、先住民や他のコミュニティとの協力、および研究とガバナンスにおける国際協力が求められている。特定のアプローチの展開を支持したり、制限したりするのではなく、一般市民、利害関係者、および政策立案者が利用可能な海洋ベースCO2除去に関する公平な知識基盤の開発を目的としている。

本報告書を作成した委員会は、以下の6つの炭素除去アプローチを特定し、それらの有効性、耐久性、拡張性、潜在的な環境リスク、社会的考慮事項、および特別な要因を評価した。また、優先研究を採り上げ、今後5年から10年にわたる施策への追加コストを見積もった。

(1)栄養素の施肥:リンや窒素などの栄養素を海面に添加して植物プランクトンによる光合成を促進し、CO2の取り込みと滞留炭素の深海への移動を促す。効果と拡張性を高、環境リスクを中、拡張コストを低と評価し、野外実験や隔離炭素の追跡等の優先研究に2億9,000万ドル。

(2)人工湧昇と沈降:湧昇は、栄養とCO2が豊富な深層水を地表まで移動させ、大気中の二酸化炭素を吸収する植物プランクトンの成長を促す。沈降は、地表水と炭素を深海に移動させる。有効性と拡張性を低、環境リスクを中~高、炭素会計のコストを高と評価し、海洋試験などの優先研究に2,500万ドル。

(3)海藻栽培:大規模な海藻養殖は、炭素を深海または堆積物に移送する。効果を中、耐久性を中~高、環境リスクを中~高と評価し、効率的な大規模養殖・収穫技術、海藻バイオマスの長期的な動向および環境への影響等の優先研究に1億3,000万ドル。

(4)生態系の回復:沿岸生態系および海洋野生生物の保護と回復により、炭素を除去・隔離する。効果を低~中、環境リスクを最低、共有利点を高と評価し、大型藻類、海洋動物および海洋保護区への影響等の優先研究に2億2,000万ドル。

(5)海洋アルカリ度の増強:CO2吸収反応を強化するために、海洋水を化学変化させてアルカリ度を高める。有効性を高、環境リスクを中、拡張コストを中~高と評価し、海洋生物への影響調査実験などの優先研究に1億2,500万~2億ドル。

(6)電気化学的プロセス:電流を流すことで、海水の酸性度を上げてCO2を放出、または、アルカリ度を上げてCO2の保持能力を高めることができる。有効性を高、拡張性を中~高、拡張コストを最大、環境リスクを中~高と評価し、実証や材料開発等の優先研究に3億5,000万ドル。

[DW編集局+JSTワシントン事務所]