[本文]

国・地域名:
米国
元記事の言語:
英語
公開機関:
全米科学・工学・医学アカデミー(NASEM)
元記事公開日:
2022/03/23
抄訳記事公開日:
2022/05/20

NASEM報告、生物物理学の期待の実現へ教育、資金、人材を指摘

Realizing the Promise of Biological Physics Requires a Multipronged Approach to Education, Funding, and Workforce, Says New Report

本文:

(2022年3月23日付、全米科学・工学・医学アカデミー(NASEM)による標記記事の概要は以下のとおり)

全米科学・工学・医学アカデミー(NASEM)による生物物理学に関する初の10年調査によれば、生物物理学(生命システムの物理学としても知られる)は、天体物理学や原子核物理学など他の著名な分野と並んで物理学の立派なひとつの分野となったといわれる。報告書は、連邦政府機関、政策立案者、大学がこの分野を将来強化する方法を概説し、研究の方向性、資金、人材、教育に関して提言するものである。

起草委員会は、生物物理学は異種の生物システムに共通する物理原理を明らかにする期待を背負っている、と語っており、報告書は今後10年間の幅広い研究を方向付ける、重要な概念的な課題を特定している。これらの課題は、単一の蛋白質分子の折り畳みから鳥の群れの組織的な動きまで、あらゆるスケールのプロセスに関わるものである。生物物理学の進歩により、科学的発見に関わる新しいツール、医療診断用の新しい機器、合成生物学に応用されるシステム生物学の新しいアイデア、脳を探索するための新しい方法と理論、人工知能向けの新しいアルゴリズムが生み出されてきた。生物物理学者の発見や手法は、エアロゾル感染をモデル化し、ウイルスの進化的ダイナミクスを理解し、2020年1月の時点における感染集団の広がりを検知するための取り組みなど、COVID-19パンデミックに対する世界の中心的対策となっている。

プリンストン大学のジョン・アーキボルト・ウィーラー/バテル物理学教授で委員長のウィリアム・ビアレック氏は、「生物物理学が物理学の一分野となっていくプロセスは、数十年にもわたり、すでにその研究は世界に大きな影響を及ぼしており、生命現象の理解を進め影響を与え続けるであろうし、この分野の可能性を最大限に引き出すには、物理学、生物学、科学全般の教育方法を再考し、分断されたファンディング構造を見直し、多様性ある有望な科学者を進んで受け入れ、育成する必要がある」と述べた。

生物物理学の分野は成長し、大きな成功を収めているが、報告書は、科学分野の構築は何世代にもわたるプロセスであり、克服すべき課題も多く、この分野を将来強化するためには連邦機関や大学が取るべき行動も多くあると注意を喚起している。

報告書による連邦政府への提言は、生物物理学に対する国立科学財団(NSF)、国立衛生研究所(NIH)、エネルギー省(DOE)、国防総省(DOD)などによるファンディング機会および施設提供の拡充、大学院教育を直接支援する助成金プログラム、留学生支援プログラムの設立である。

また報告書は、次世代の育成のため、教育機関の特殊性や教育経験を踏まえた学部教育の見直し、ハラスメント対応など女子学生への配慮、研究型大学における生物物理学教育の強化、生物物理学の発展を踏まえたカリキュラムの見直し、学部生への資金的支援などを勧告している。

[DW編集局+JSTワシントン事務所]