[本文]
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- 国・地域名:
- フランス
- 元記事の言語:
- フランス語
- 公開機関:
- 原子力・代替エネルギー庁(CEA)
- 元記事公開日:
- 2022/06/16
- 抄訳記事公開日:
- 2022/07/27
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クローン病の新しい治療法に向けて
- 本文:
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(2022年6月16日付、原子力・代替エネルギー庁(CEA)の発表の概要は以下のとおり)
原子力・代替エネルギー庁(CEA)が参画する欧州の「ニューディール」プロジェクトに結集した研究者らが、クローン病などの慢性炎症性腸疾患を治療するための画期的な治療法を提案している。試験管実験や・臨床前試験からの最初の成果からは効果が期待される。
慢性炎症性腸疾患は、フランスでは20万人、欧州では300万人以上患者がいるとされ、発生率は特に若者で増加傾向にある。現在のところ治療法はない。患者に提供されているのは、副腎皮質ステロイドなど、症状を軽減するか、急性発作の発症を防ぐ薬のみである。
■Lipidot® によって運ばれるRNA
これらの病状におけるJAK1およびJAK3酵素の役割を指摘する最近の発見により、5年前にある研究者グループが新しい治療戦略の開発に着手した。これら2つの酵素は免疫応答細胞の活性化に関与しているが、IBDでは腸内で過剰に発現し、炎症現象を引き起こす。
それらを不活化するために、研究者らは、各タンパク質の製造プロセスをブロックすることによって特異的に作用する干渉RNAの小片を使用した。しかしこれらのRNAは非常に壊れやすく、体内で急速に分解される。このため保護(粒子状)カプセルに封入された高性能ベクター Lipidot® により、それらを目的の場所に安全に届けることが主な課題とされた。これらの粒子は、ナノメートルサイズ(ナノは10のマイナス9 乗で、1ナノメートルは100万分の1ミリメートル)のオイルボールである。非常に安定しており、生体での耐性も良好で、膜の脂質との親和性により、細胞に容易に浸透する能力がある。
■効果的な治療戦略
CEA-Irig によって調製および選択された低分子干渉 RNA 鎖が結合しているのは、これらの Lipidots® の表面である。すべては、プロジェクトのパートナーでもある企業 Seps Pharma 社によって開発されたポリマー・カプセルに挿入された。その役割は、胃の酸性環境を問題なく通過し、腸で溶けてその「包み(干渉RNA)」をそこに届けることである。
4年間の研究開発の後、「ニューディール」プロジェクトは非常に有望な結果をもたらした。試験管内の実験は、胃腸通過を模倣する装置により、異なる媒体を通過するときのポリマーシェルの安定性、そして腸内でのRNAの送達を示した。マウスで生体内実験を実施した他の研究者らは、ナノ粒子がさまざまな生物学的障壁を越え、腸の炎症細胞に入り、そこに干渉RNAを送達する能力を確認した。この実験では JAK タンパク質合成の阻害に対する有効性も実証されている。
■今後の臨床試験の準備
研究チームは、バルセロナ臨床病院が提供するヒトの腸オルガノイドで治療のテストをした。
その結果、これらの概念実証により、薬剤の開発につながる長い道のりの第一歩が踏み出された。今こそ、次の段階である臨床試験、つまりヒトでの試験段階を資金支援し、開始するため、企業パートナーを見つける時である。研究チームはすでにげっ歯類での毒性研究を検証し、臨床試験の開始に向けた規制書類の最初の草案を作成した。
■Lipidots® について
約15の特許で保護されているCEA-Letiの技術であるLipidots®は、治療用分子のベクターである。治療用分子は、Lipidotの内部にカプセル化されることが好ましいが、それらの表面に移植することもできる。ごく最近の開発の1つは、メッセンジャーRNAを移植して、Lipidot上で SARS-Cov-2 ウイルス(病原体)の表面タンパク質の1つを合成できるようにすることで、Covid-19に対するワクチンの開発を目的としている。
CEA-Letiは、Lipidotの生産拡大の準備もしている。製薬業界の下請け業者であるGTP-Nano社と提携して、産業環境での製造プロセスを開発している。500ミリリットルまでの量で最初のステップがすでに実行されている。数リットルの容量に到達可能な次なるステップは、準備中である。
[DW編集局+JSTパリ事務所]