[本文]

国・地域名:
EU
元記事の言語:
英語
公開機関:
欧州委員会(EC)
元記事公開日:
2022/06/22
抄訳記事公開日:
2022/07/27

グリーンディール:2050年までに欧州の自然を回復し、2030年までに農薬の使用を半減させるという先駆的な提案

Green Deal: pioneering proposals to restore Europe's nature by 2050 and halve pesticide use by 2030

本文:

(2022年6月22日付、欧州委員会の発表の概要は以下のとおり)

欧州委員会はこのほど、被害を受けた生態系を回復し、農地や海から森林や都市環境に至るまで、欧州全体に自然を取り戻すという先駆的な提案を採択した。欧州委員会はまた、化学農薬の使用とリスクを2030年までに50%削減することを提案している。これらは、「生物多様性」戦略と「農場から食卓へ」戦略に沿った主要な立法案であり、EUおよび世界中の食料供給のレジリエンスと安全確保に資するものである。

■欧州の自然が蒙った被害を2050年までに修復するための自然回復法

欧州委員会は、欧州の自然の回復を明確に目標に掲げ、状態の悪い欧州の生息地の80%を修復し、森林や農地から海洋・淡水・都市の生態系に至るすべての生態系に自然を取り戻すことを目的とした史上初の法律を提案している。自然回復法に関するこの提案の下では、多様な生態系における自然回復の法的拘束力のある目標がすべての加盟国に適用され、既存の法律を補完する。目標は、2030年までにEUの陸域と海域の少なくとも20%を自然回復措置でカバーし、最終的にはこれらを2050年までに回復が必要なすべての生態系に拡大することである。

この法律は、野生の復元、樹木の再生、都市やインフラの緑化、自然の回復を可能にするための汚染の除去など、自然回復措置の既存の経験の規模を拡大する。自然回復は自然保護と同等ではなく、自動的に保護地域の拡大につながるものではない。保護地域は状態が悪化しているため、自然の回復も必要であるが、すべての回復地域が保護地域になる必要はない。回復は経済活動を妨げるものではないので、それらのほとんどは保護地域にはならない。回復とは、管理された森林、農地、都市などの経済活動が行われている地域を含め、あらゆる場所に生物多様性を取り戻すことにより、自然と共存して生産活動を行うことである。

(自然の)修復は社会のすべての部分に密接に関係し、利益をもたらす。それは包括的なプロセスで行われる必要があり、農民、森林管理者、漁師など、健康的な自然に直接依存している人々に特にプラスの影響を与える。自然回復への投資は、食料安全保障、生態系や気候の回復力と緩和、人間の健康を支援する生態系サービスにより、1ユーロの支出ごとに8ユーロから38ユーロの経済的価値をもたらす。それはまた、我々の風景や日常生活における自然を高め、健康と福祉、文化的・レクリエーション的価値に明白な利益をもたらす。

自然回復法は、陸と海の幅広い生態系にわたって回復の目標と義務を設定する。炭素を除去および貯蔵し、洪水などの自然災害の影響を防止または軽減する可能性が最も高い生態系が最優先される。新しい法律は既存の法律に基づいているが、「生息地指令」および「Natura 2000」による保護地域に限定されるのではなく、すべての生態系を対象としており、すべての自然および半自然の生態系を2030年までに回復へと導くことを目指している。EUからの多額のファンディングの恩恵を受ける。現在の多年次財政枠組みで、回復を含む生物多様性への支出に約1,000億ユーロが用意される。

提案された目標は次のとおりである。

・2030年までに受粉媒介生物数の減少を逆転させ、それ以降受粉媒介生物数を増やす。
・2030年までに市街地緑地空間の実質的な損失をなくし、2050年までに5%増加させ、欧州のすべての都市、町、郊外を最低10%の樹冠で覆い、建物やインフラと一体化した緑地空間を実質確保する。
・農業生態系では、生物多様性の全体的な増強、つまり草地の蝶、農地の鳥、農地の無機質土壌中の有機炭素、農地の多様性の高い景観特性の有益な増強を図る。
・農業用および泥炭採掘現場での排水泥炭地の回復と再湿潤。
・森林生態系では、生物多様性の全体的な増強、つまり森林の接続性、枯れ木、不均一な年齢の森林のシェア、森林の鳥、有機炭素の蓄積に関して有益な増強を図る。
・海草や海底堆積物などの海洋生息地を復元し、イルカやネズミイルカ、サメ、海鳥などの象徴的な海洋種の生息地を復元する。
・2030年までに少なくとも25,000 kmの河川が自由に流れる河川に変わるように、河川の障壁を取り除く。

国レベルの状況に柔軟に対応しながら目標を達成するべく、本法律は、科学者、利害関係者、一般市民と緊密に協力して、各加盟国が国の回復計画を策定するよう義務付けている。ガバナンス(監視、評価、計画、報告、施行)には特定の規則がある。これにより、国および欧州レベルでの政策立案も改善され、当局が生物多様性、気候、生活関連の問題を一体的に検討できるようになる。

この提案は、生物多様性の喪失を逆転させて、自然の回復を模範として示すことによる欧州の2030年目標に向けた(欧州グリーンディールの重要な要素である)生物多様性戦略に基づいて実行される。今年12月7 ~ 15日にモントリオールで開催予定の生物多様性条約COP15で採択予定の2020年以降の地球規模生物多様性フレームワークに関する進行中の交渉において、EUの重要な役割を示すものである。

■2030年までに化学農薬の使用を削減し、より持続可能な食料システムを確保するための強力な規則

化学農薬の使用を削減するという今回の提案は、欧州での生物多様性の喪失を食い止めるというEUの公約を行動に移すものである。この提案は、持続的な食料安全保障を確保し、我々の健康を保護しながら、欧州グリーンディールと「農場から食卓へ」戦略に沿った持続可能な食料システムの構築に資する。

科学者と市民は、農薬の使用と環境中の残留物と代謝物の蓄積についてますますの懸念を抱いている。欧州の未来に関する会議の最終報告書で、市民は農薬の使用とリスクへの対処を特に要求した。しかし、「農薬の持続可能な使用に関する指令」の現在の規則は弱すぎることが証明されており、不均衡に実施されている。また、総合的病害虫管理やその他の代替アプローチの活用については、十分な進展が見られていない。化学農薬は人間の健康を害し、農業地域の生物多様性の低下を引き起こす。それらは空気、水、そしてより広範な環境を汚染する。欧州委員会は次のような明確で拘束力のある規則を提案している。

・2030年までに化学農薬の使用とリスク、およびより危険な農薬の使用を50%削減するための、EUおよび国レベルで法的拘束力のある目標。各加盟国は、EU全体の目標を確実に達成するために、定義されたパラメーター内で独自の国内削減目標を設定する。環境にやさしい害虫駆除に関する厳格な新規則(新措置により、すべての農家と他の専門的な農薬ユーザーが総合的病害虫管理(IPM)を実践することが保証される。IPM では、化学農薬が最後の手段として使用される前に、害虫の予防と管理に代替の環境的方法が最初に考慮される。この措置には、農家やその他の専門家ユーザーの記録管理の義務化も含まれている。さらに、加盟国は、化学農薬の代わりに使用される代替物を特定する作物固有の規則を確立する必要がある。
・影響を受けやすい地域でのすべての農薬の禁止。公共の公園や庭園、遊び場、学校、レクリエーションやスポーツの場、公共の小道、Natura 2000 に準拠した保護地域、絶滅の危機に瀕している授粉媒介生物のために保護されるべき生態学的に影響を受けやすい地域を含む、都市の緑地等の場所でのすべての農薬の使用が禁止される。この新規規則により、我々の日常生活の中で我々の近隣から化学農薬を取り除く。

この提案は、既存の指令をすべての加盟国に直接適用される規則に変換する。加盟各国は、欧州委員会に詳細な年次進捗報告と実施報告を提出する必要がある。

[DW編集局]