[本文]

国・地域名:
フランス
元記事の言語:
フランス語
公開機関:
原子力・代替エネルギー庁(CEA)
元記事公開日:
2022/08/08
抄訳記事公開日:
2022/08/31

<対談>気候変動をどう食い止めるか

Comment limiter le changement climatique ?

本文:

 (2022年8月8日付、原子力・代替エネルギー庁(CEA)の標記発表の概要は以下のとおり)

 いま地球温暖化に直面しているにもかかわらず、意思決定者や世論に、緊急性をもって行動をさせることが難しいのはなぜなのか。彼らの本当の気づきを妨げているものは何なのだろうか。小説は科学的言説を助けることができるのだろうか。CEAの気候学者であり、IPCCのワーキング・グループ1の共同議長であるヴァレリー・マソン=ドルモット氏(Valérie Masson-Delmotte:本文中「V氏」)と、作家で、「ツォンゴール王」(2002 年にゴンクール賞受賞)で有名なロラン・ゴデ氏(Laurent Gaudé:同「L氏」)が、議論した。

■自然の力に立ち向かう人類

L氏:私の想像の世界では、2005 年にカトリーナがニューオーリンズを襲った、自著のハリケーンのように、自然は時として激しく突発的に語りかけてきます。私は並置される二つの次元、つまり、人間の生活を停止させる気候による惨事という次元と、それと戦う人間の小さな世界という次元について語っています。これはおそらく、人間の本性を明らかにするこの極端な事象こそ、私の多くの著書の共通点です。

V氏:ハリケーンは確かに私にも特に大きな影響を与えました。貧困層が住む洪水地帯で何も機能しない都市において、我々はどのように生き残ろうとしているのかを物語っています。米国のような豊かな国でさえ、変動する気候に対応する準備ができていないことは明らかで、これは2022年現在も同様です。

■気候に関する正義

V氏:気候変動について語るとき、社会、気候、世代間の正義の問題が顕著に存在します。30 億人以上の人々がその影響を非常に受けやすくなっています。あなたの小説「ハリケーン」と「エルドラド」は、これを非常によく示していますね。これらの気候問題については、世代間で断裂や不正の形態も存在します。西側諸国には歴史的責任があります。私たちは無意識のうちにCO2排出量の非常に大きな蓄積に貢献してきましたが、若い世代はそれを背負っている。責任を持ち行動を起こすための手段を有する人々は、非常に多くの場合、気候変動対策の精神的負担を最年少者に押し付けることで、行動する能力を破棄します。最近の IPCCのある報告書の結論を提示したばかりの国会議員が私にこう言うのを聞き、私はぞっとしましたよ――「でもすべて順調です。われわれは子供たちに気候変動を教えているので、物事は進んでいます」と。われわれが課題に対処するために今行動しなければ、最年少の子どもたちは、損失、損害、さらに増加するコストを伴って、さらに温暖化する気候に適応しなければならなくなります。

■コペルニクス的革命

L氏:われわれに求められているこの対応行動の幅は、私の意見では、個人の日常生活、選択、さらには信念など、あらゆる分野での深遠な「コペルニクス的革命」を暗示するものです。この革命後の世界の神々は誰になるのか。進歩の概念はまだ意味を持っているのか。自然は再び強い信仰の対象となるのか――それは主権と領土の問題も提起します。たとえば、アマゾンの熱帯雨林はブラジルだけのものなのか、と。

V氏:現実問題として、地球温暖化を止めたいのであれば、地球全体のCO2排出量を正味ゼロにするべく極力早急に動き、メタン排出量を大幅に削減する必要がありますね。目標到達が早ければ早いほど、その分温暖化は弱まる。難しいですが、実現可能性が確立された多くの手段があります。エネルギーの分野では、発電を脱炭素化し、それ以外を電化する必要がありますし、さらに土地の利用と農業実践という手段もあります。たとえば植物性の食事は、土地への圧力を減らし、炭素を貯蔵し、生態系を保護するためのより多くの余地をもたらします。都市システムでは、循環経済、エネルギー効率、低炭素モビリティなどを促進できます。エネルギー、動物性タンパク質、さらには再生不可能な素材の需要を抑制することで、生産システムを持続可能性に向けてより迅速に変革することができます。確かに、このような変化は、われわれが集合的に可能にする生活様式のタイプに関して非常に深い問題を提起します。また私は、社会では根底から深刻な変化が起こり、その後政治的な力を生み出し、それがガバナンスのレベルで自らを課すことになると確信しています。

■気候変動に持続的に対処するための障害を取り除く

L氏:解決策は、何よりも政治的なものになると思います。組織化された勇気ある施策が必要であります。しかしそれらが私の世界ではなく、私の後に存在する世界を改善するのに役立つと自分に言い聞かせるには、自己犠牲と強い内面的モラルが必要であります。再選という短い締め切りに従って生きている政界とは、少し二律背反する道徳であります。

V氏:ブレーキはまだ数多くあります。(特に欧州で強い)変化への嫌悪感、政府への不信、非常に深刻な経済的・政治的封鎖、公的決定における現在および将来の気候変動に関する情報の不十分な取り込み、などです。たとえば気候変動下でインフラが適切に機能するように、現在整備されているインフラでは、温暖化 1 度あたり 7% の極端な降雨の強度増加を考慮することが不可欠です。これに加え、温室効果ガス排出削減という取り組みを維持すること、すべての関係者と知識を動員する戦略実施の能力の両方について、明確な責任、特に政治的意思決定者の責任が欠如している、と付言しておきたいです。



 この対談ではほかにも、次の事項についての両者の議論が示されている。
■実績を示す
■気候に関する知識の共有

[DW編集局]