（2023年11月7日付、欧州委員会の標記発表の概要は以下のとおり）

ファイナンシャル・タイムズ社（FT）および欧州通信ネットワーク事業者協会（ETNO）がこのほど主催した技術＆政治フォーラムにおいて、イノベーション、研究、文化、教育および若者担当欧州委員イリアナ・イワノバ氏が行った講演の講演録から、その要旨を以下に記す。

■ 今日の細分化された世界において、グローバルな技術リーダーになることの意味

世界的な技術競争における欧州の立場を考えるとき、近年起こっている地殻変動を無視することはできない。パンデミック、ますます頻繁になる気候変動の影響、ロシアによる戦争、地政学的不安定。これにより、欧州市民としての技術に対する見方が変わった。

技術はもはや、成長モデルの単なる要素の1つではない。今日、それは我々の安全保障、主権、価値観の決定的な要素でもある。

したがって、グローバルリーダーになるということは、このパラダイムシフトを完全に受け入れ、それがもたらす機会をつかむことを意味する。重要なことに、これは教育とイノベーションに対する見方を変える必要もあるということである。

技術が欧州の安全保障、主権、価値観の源であることを認識し、教育とイノベーションがこれらの理想を前進させる触媒であると意識しなければならない。

■ 教育

強力な人材基盤がなければ、リーダーシップを追求することはできない。

変化の大きい雇用市場を乗り切り、デジタル社会に完全に対応するために必要な重要なスキルを、教育によって身につけさせる必要がある。デジタル・リテラシーの高さが、フェイクニュースや偽情報の脅威に対して民主主義をどれほど強化するかを考えてみる必要がある。

欧州は正しい軌道に乗っている。欧州には世界最高レベルの大学がフック数ある。今後数年間で、学生、教員、研究者のための国境のない欧州教育圏（EEA）を実現するべく懸命に取り組んでいる。

しかし、これでは十分ではない。刻々と変化する技術情勢に機敏に対応できる教育・訓練システムの構築に努める必要がある。EUは加盟国と協力してカリキュラムを革新し、若い頃からデジタルスキルと起業家精神を育み、EU全域の教育者が必要なツールを確実に手にできるようにする。我々は、欧州のすべての若者に質の高い教育を提供することを約束する。

■ イノベーション

教育が支柱であるならば、イノベーションは推進力である。

EUのHorizon Europeは、ほぼ1,000億ユーロの予算を投じた世界最大の公的な研究・イノベーション・プログラムであり、EUが多くの面でリードできること、そして実際にリードしていることを示している。

欧州は研究・イノベーション大国である。人口では世界の2%にすぎないが、世界最高品質の発表論文では20%を占めている。グリーン特許の5件に1件は欧州で出願されている。そして、EUの人工衛星コペルニクスとガリレオは、気候変動や自然災害への対応に資する新たなデータポイントを継続的に生成している。

だが、ここでも、為し得ることがさらにある。加盟国の総研究開発投資は依然としてGDPの3％目標を下回っている。民間資本のリスク選好度は米国に比べて低く、投資家は、我々が望んでいるよりも忍耐強くないことが多い。これらの要因が、EUの優れた研究を市場に投入することを困難にしているのは間違いない。

だからこそ、研究・イノベーションに特化した強力な予算、現実とニーズを反映した予算が必要なのである。Horizon Europeの一部を成す欧州イノベーション会議（EIC）は現在、欧州大陸最大のベンチャー・キャピタル投資機関である。これは画期的な技術をスケールアップするための主要なツールであり、101億ユーロを投じて画期的なイノベーションを支援している。

規制の枠組をより使い易いものにしている。昨年、EUは負債と資本に対する税の偏向に対処するために動いた。企業が研究・イノベーションに投資する際に、より賢明な財務上の選択を行い、より多くの株式を利用し、より強靭性を高められるよう支援したいと考えている。具体的な改善も見られている。昨年、欧州の投資家はディープテックの新興企業に170億ユーロを注ぎ込んだ。これは、「欧州イノベーション・アジェンダ」の効果である。

■ EUが求めるリーダーシップ

イノベーションが経済の強靭性と戦略的自律性の方向性を形成する上で重要であることを知っている。このため、Horizon Europeでは、他国がEUの信頼を悪用できないようにするために必要な保護措置を講じている。

一方で、EUの強みは開放性であることを忘れてはならない。保護主義はイノベーションを阻害する。このため、経済安全保障戦略に沿って、EUのアプローチはリスク回避（de-risking）に重点をおいている。EUの研究・イノベーション・エコシステムが、特に量子、AI、半導体などの重要な戦略的技術に関連した脆弱性を軽減する上で重要な役割を果たすことができる。EUのモットーは、「可能な限りオープンに、必要に応じてクローズに」である。

一方で、EUは世界中のパートナーとの対等な立場での国際協力を強化している。

[DW編集局]