[本文]

国・地域名:
ドイツ
元記事の言語:
ドイツ語
公開機関:
マックスプランク協会(MPG)
元記事公開日:
2024/04/09
抄訳記事公開日:
2024/05/31

政府とその気候政策に対する訴訟が世界中で増加、気候保護者という立場の裁判所

Gerichte als Klimaschützer

本文:

(2024年4月9日付、マックスプランク協会(MPG)の標記発表の概要は以下のとおり)

これまで、ほとんどの工業先進国は、CO2排出量を中途半端に制限してきた。地球温暖化の影響もますます明らかとなっている。政治への圧力も高まり、世界中の気候活動家が天然資源の保存を求めて、訴訟を起こそうとしている。マックスプランク比較公法・国際法研究所では、裁判権と法が、気候変動に対して何ができるかについて研究している。

昨年11月に放送されたARDのテレビ映画「環境破壊(Ökozid)」は、フィクションではあるものの、2034年には、不十分な気候保護の結果として、ドイツが提訴されるというシナリオである。上記研究所の元研究員は、「国際司法裁判所に提訴されたことはないが、可能性はある」と述べている。

環境破壊―架空の未来のシナリオ:
2034年には、干ばつや洪水により何百万人もの人々の生活が破壊されるなど、気候変動による大惨事は劇的な結末を迎えると予想される。裁判所はドイツの政治家たちが気候保護の失敗と、気候変動に対して十分な対策を取らなかった責任を問われるかどうかを判断しなければならない。気候研究者、活動家、弁護士などは世界的なネットワークで知識をプールしており、世間の注目を集める法的手続きに備えている。

気候目標には、直接の強制力がない:
法学者のスパークス(Sparks)氏によれば、パリ協定の目標には、直接の強制力はないとされている。これこそが、多くの訴訟が失敗に終わる理由である。欧州司法裁判所(ECT)は、気候目標は訴訟を起こす個人の権利を認めるものではないとしている。一方、欧州人権裁判所(ECHR)は、訴訟の特別手続きを認めた。法律専門家にとっては目新しいことであった。

オランダ「ウルゲンダ」財団に対し画期的な判決:
2013年オランダの「ウルゲンダ」財団は、パリ協定の気候目標を達成するために、2020年までにさらに多くのことを行うよう政府に要求した。ハーグ地方裁判所は政府に対し、2020年までに、排出量を少なくとも25%削減するよう義務付けた。「ウルゲンダ裁判は、予見可能な市民の危険に対する国家の責任をすでに定めている」と元弁護士のドナティ(Donati)氏は説明する。

フランスとドイツの裁判官が、気候保護を支持する判決を下す:
パリ行政裁判所は今年2月、判決の中で、気候変動に関連する生態学的被害を明確に認定し、その責任をフランス国家に負わせた。ドイツでも4月、連邦憲法裁判所は、2019年の連邦気候保護法を部分的に違憲と宣言した。ハイデルベルグのマックスプランク比較公法・国際法研究所の気候弁護士であるヤニカ・ヤーン(Janika Jahn)氏は、「2021年8月31日改正された気候保護法は、現在ECHRへの上訴の対象となっている」と述べた。ドナティ氏は、EU法の下で、生態学的、経済的、法的気候リスクに対処するために、EUに厳しい要件を設定することを目的としたEUグリーンディールの提案をどのように実施できるかを検討している。

いかなる国も他国に危害を加えてはならない:
気候を保護するための国際的な義務、それは海面上昇、火災や暴風雨の被害、干ばつの増加に直面した時の解決策であるように思われる。スパークス氏は「政府間訴訟は、主に人権侵害に依拠する訴訟とは異なり、通常、国家的な影響を及ぼさないため、気候問題の解釈にはるかに大きな影響を与える可能性がある。国際司法裁判所の勧告的意見は、国家の権限と義務を権威ある形で宣言するものであり非常に重要な意味を持つ」と説明した。

結論:
1) これまでのところ、気候保護のさらなる強化を求める訴訟は、すでに国内の裁判所で勝訴している。裁判官は、基本的人権と人権に基づいて判決を下している。
2) 2024年4月、ECHRは、欧州33ヵ国に対する気候変動訴訟を承認し、スイスの高齢者の訴訟は十分な根拠があると判断した。
3)気候を保護する義務は、欧州人権条約からも導きだすことができる。

[DW編集局]