[本文]

国・地域名:
フランス
元記事の言語:
フランス語
公開機関:
国立科学研究センター
元記事公開日:
2024/07/18
抄訳記事公開日:
2024/08/16

CNRS、中国との関係を強化へ(後編)

Le CNRS intensifie sa collaboration avec la Chine

本文:

(中編より続く。中編は8月15日に公開しています)

国際的な仏中研究ネットワーク : 知識共有を促進するツール(CASとの共同4ネットワークについて)

 CNRSとCASは2023年10月、優先的に協力する分野として「素粒子物理学」「数学」「生物多様性と気候変動の影響」「海洋研究」の4分野で合意している。これにもとづき、両機関は今回、「応用数学」「素粒子物理学」「生物多様性」のテーマに焦点を当てた4つの国際研究ネットワークの立ち上げを正式に正式に発表した。

 このうち「生物多様性研究国際ネットワーク」は、 両国合わせて約15のパートナーによって支援されており、生物多様性を専門とする研究者を結び付けることを目的としている。生態系を保護するための解決策を重視し、両国が蓄積した知見のやりとりを促す取り組みである。 ネットワークのコーディネーターを務めるマガリ・プロフィット氏は「ネットワークの目的の一つは研修だ。当初は中国人学生を対象としていたが、現在はフランス人学生もこのプログラムに参加している」という。アラン・メルメCNRS欧州・国際総局長も「フランスの若い研究者にもっと中国に行くよう奨励することは、こうした新たな協力の重要な課題だ。CNRSがこうしたシステムを作ることで、人的流動性を高めることができる」と話す。

地中海と中国の特定地域との類似点

 生物多様性に関する両国間の協力は強い基盤の上に成り立っており、これらの協力のなかには数十年にわたって続いている例もある。 「植物と花粉媒介者の間の特定の相互作用や、地中海と中国の特定地域の間の高レベルの大気汚染など、両国の特定の生態系で類似している点が多く、比較研究が有効だ」とマガリ・プロフィット氏は話す。研究者らは、大都市におけるドブネズミのリスクなど、人獣共通感染症の問題にも取り組んでいる。 マガリ・プロフィット社のネットワークコーディネーターであるキャロライン・ハボルド氏は「ドブネズミはフランスと同様に中国でも繁殖しているため、詳細な比較研究が可能です。またフランスのヨーロピアンハムスターや中国での類似の種が減少しているが、これによって農業環境における生物多様性が失われており、そこに共通の懸念がある」という。今回のネットワーク設立によって製糸式に研究協力を行うことで、研究の安定化と強化が期待されるほか、さらに専用の資金提供の恩恵を受けることなどによって永続的な協力を確保できる。最終的には国際的な研究機関を創設することも視野に入れている。

■素粒子物理学における強力なコラボレーション

 今回設立されたもう一つのネットワークは「フランス・中国素粒子物理学ネットワーク」(FCPPN)である。「CNRS原子粒子研究所とCASは緊密に協力してきた。その関係は、マリー・キュリーとピエール・キュリー夫妻、そしてフレデリック・ジョリオ=キュリーとイレーヌ・ジョリオ=キュリー夫妻によって確立された原子物理学にルーツがある」――。中国のチェン・ガン氏と共同でネットワークを監督しているエリック・カジファズ氏はこう説明する。この協力は、フランスの物理学者ミシェル・ダヴィエが顧問を務めた中国初の衝突型加速器「北京電子陽電子衝突型加速器」の建設による強化された。欧州原子核研究機構(CERN)が大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を開発したことにより、中国側が協力を強化したい要望。これを受けて2007 年、フランス中国素粒子物理学研究所(FCPPL)が創設されたが、これを発展させて今回のFCPPNが始まった。カジファズ氏は「この取り組みには、両国合わせて40以上の研究機関や大学が参加しており、素粒子や天体粒子物理学、宇宙理論、加速器およびセンサー技術における協力関係を作ることを目指している。今後、北京にあるCASの高エネルギー物理学研究所(IHEP)のキャンパスに国際的なな研究所が設立される可能性がある。特に江門ニュートリノ地下実験施設(JUNO、広東省)など、中国国内で展開されているプロジェクトに活動を注力していきたい」と話した。FCPPNの資金は現在、約30 件の年間共同プロジェクトと博士課程学生の共同研究を支援している。2006年以来、毎年5日間の会合が両国間で交互に開催され(過去2回は2023年に珠海、2024年にボルドー)、科学協力はさらに強固なものとしている。

 今回、代表団はJUNOの施設も訪問した。 JUNOはCASが主導する国際協力の成果だが、約10 年前にプロジェクトが始まって以来、CNRS原子・粒子物理学研究所も参加している。フランスの研究者も参加するこのJUNOにより、中国はニュートリノ物理学の世界的リーダーとしての地位を確立している。 今回の訪問中に4つの国際研究ネットワーク協定に署名したことは、中国の主要研究機関との連携を強化するというCNRSの決意を示している。

(おわり)

[DW編集局]