[本文]

国・地域名:
ドイツ
元記事の言語:
ドイツ語
公開機関:
ヘルムホルツ協会感染症研究センター(HZI
元記事公開日:
2024/10/18
抄訳記事公開日:
2024/11/21

科学者たちによる抗生物質不足への警鐘

Wissenschaftler:innen schlagen Alarm wegen mangelnder Antibiotika

本文:

(2024年10月18日付、ヘルムホルツ協会感染症研究センター(HZI)の標記発表の概要は以下のとおり)

パウル・エーリッヒ協会第29回年次大会において、新たな薬剤耐性を打ち破る抗生物質の開発条件を改善するよう、研究者、医療従事者、製薬業界の代表者が緊急声明を発出した。

薬剤耐性(AMR)はWHOによれば世界の健康に対する10の代表的脅威の一つとされる。欧州連合域内だけでも毎年約3万5,000人が抗生物質耐性感染症で死亡している。WHOは2019年には世界中で127万人が薬品耐性感染症により死亡したと推定している。

「これは憂慮すべき事態で、緊急の対応が必要である」と語るのは、ポール・エーリッヒ感染症治療協会(PEG)の会長で、イエナ大学感染症医療・病院衛生研究所長のプレッツ教授(Prof. Mathias Pletz)である。「今、現代医学が達成したものを失い、ペニシリンを発見する以前の時期に後戻りしつつある。感染症は死因の第3位だが、社会の高齢化、がんやリューマチの治療、インプラント外科手術の進歩などにより感染症にかかりやすい患者は増え続けている。したがって有効な抗生物質を確保しておくことは現代医学と高齢化する社会にとって不可欠である」と続ける。「しかし抗生物質の有効性は耐性菌の蔓延により、ますます脅かされている。抗生物質耐性の発達は進化の自然の過程であり、止めることはできないが、抗生物質の賢く慎重な使用のみが耐性の進みを遅らせることができるということを理解する必要がある。これが常に耐性を破る新しい抗生物質を必要とする理由である」ともプレッツ教授は付け加えた。

「新しい抗生物質のパイプラインは事実上、空っぽだ。2017年以降、新たに認可された抗生物質は12しかないが、そのうち10の抗生物質に対しては既に耐性ができてしまった」とドイツ感染症研究センター(DZIF)のブレンシュトゥルプ教授(Prof. Mark Brönstrup)は言う。その理由は、製薬企業が次々と抗生物質の研究開発を取りやめているからである。抗生物質の場合、新たな耐性ができるのを遅らせるため、できるだけ使用を控えるので、通常の市場メカニズムが機能しない。そのため販売量が少なくなり、研究開発費やマーケッティングの費用を回収することができない。

「したがって私たちは新たな耐性を打ち破る抗生物質の開発を促進し、コストを回収できるメカニズムを考える必要に迫られている」と抗生物質耐性破壊ドイツネットワークの報道担当であるツィマー氏(Harald Zimmer)は指摘する。このため、新たな抗生物質を開発した製薬企業に対して、別の薬品を独占的に販売できる期間を延長することにより、その企業に利益をもたらすという議論が進んでいる。

PEG会合ではバクテリオファージを用いた治療法や、バクテリアを弱体化して病気を起こさせる能力を阻害する方法(パトブロッカー)が、抗生物質に替わる可能性のある将来の代替方法として紹介された。抗生物質の新たな市場メカニズムの確立や抗生物質の代替手段の研究は耐性菌の増加に伴い不可欠である。

[DW編集局]