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- 国・地域名:
- フランス
- 元記事の言語:
- フランス語
- 公開機関:
- 高等教育・研究省(MESR)
- 元記事公開日:
- 2024/10/17
- 抄訳記事公開日:
- 2024/11/22
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タラ極地観測船が北極探査に向けて進水
Tara Polar Station : mise à l'eau avant une série d'expéditions en Arctique
- 本文:
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(2024年10月17日付、高等教育・研究省(MESR)の標記発表の概要は以下のとおり)
建築家オリヴィエ・プティとタラ海洋財団の設計による極地科学基地であるタラ極地観測船が進水式を迎えた。この浮遊する科学基地は、どのようなイノベーションをもたらすのであろうか。
タラ海洋財団は、世界的に有名なフランスのファッションブランド「アニエス・ベー」(agnès b.)を生み出したアニエス・トルブレ氏によって2003年に設立され、現在はエティエンヌ・ブルゴワ氏が運営を担っている。この財団は国立科学研究センター(CNRS)、原子力・代替エネルギー庁(CEA)、欧州分子生物学研究所(EMBL)などが参加する科学コンソーシアムと提携し、外洋科学の発展、気候リスクの理解促進、生物多様性の確実な保護、国民の意識向上に取り組んでいる。
浮遊する革新的な科学基地であるタラ極地観測船は、タラ海洋財団のスクーナー船をモデルにしたものであり、全長26メートル、幅16メートルで、過酷な条件を想定して設計されている。北部シェルブールのノルマンディー機械建造所(CMN)によって建造された技術的な偉業といえる。融解した氷に適応した楕円形のアルミニウム製船体は、マイナス52°Cに達する北極圏の温度に耐え、流氷の攻撃から逃げることができる。観測船は冬には氷に閉ざされ、夏には氷が融けた海水中で数か月連続して浮遊する。
連続18か月間航海し、その時間の90 %は氷に閉じ込められる。乗組員は夏季18名、冬季は12名で、気候学者、生物学者、海洋学者のほか芸術家、ジャーナリストも含まれる。2024年10月初旬にシェルブールで進水した後、2025年中に数か月間、極地での試験航海を行う予定である。観測船は、2046年まで10回の連続した航海に出る。
観測船は、食用油のリサイクルによるバイオ燃料により、「カーボンフリー」のエネルギーによって電力供給される。ソーラーパネルと風力タービンがバッテリーの自律性を高める。この科学基地には、サンプルハンドリング用のウェットラボ、実験装置付きドライラボ、オンサイト実験専用の5つのラボが装備されている。
観測船の総予算2,100万ユーロのうち、1,300万ユーロは、政府の5か年投融資計画「フランス 2030」から支援を受けている。
観測船の任務は以下のとおり。
▽北極気候研究の加速
観測船の目標地は、気候変動と汚染の脅威に晒されている未知の中央北極海である。特にこの海域は、温暖化が世界平均よりも速く、深刻である。観測船の課題は、衛星観測では十分にカバーできない海域において、気候変動が生物多様性に与える影響や在来種の適応能力を理解するため、年間を通して長期にこの海域を研究することである。科学者は、短波長と長波長の放射束を含む太陽放射のバランスに関わる理解を深めること、特に衛星観測ができない北緯80度以北での雲、エアロゾル、およびこれらの放射束を複数年にわたって観測する必要性を指摘している。▽フランスの極地戦略への貢献
観測船は、2030年までに「両極地のバランスを図る」という、フランスの極地戦略への貢献を義務とする。目標は、北極圏と地球の他の地域における気候変動の影響に対する理解を深め、現在アクセスできない地域を探索して、地球上の生物多様性に関する知識を深め、海氷の融解と汚染がこれらのユニークで脆弱な生態系に及ぼす影響を分析することである。 [DW編集局]