（2025年2月12日付、ユーリッヒ研究センター（FZJ）の標記発表の概要は以下のとおり）

量子コンピューターは、これまでのスーパーコンピューターを遥かに超え計算能力の革命をもたらす。AIで経験しているような破壊的で大きな変化を職場環境にもたらす可能性がある。昨日、初めての会合が開かれたQAIACプロジェクトは、AIと量子コンピューターという2つのキーテクノロジーを合体させる。ユーリッヒ研究センターの研究者は、メルセデスベンツ社、ZFフリードリヒハーフェン社、ドイツAI研究センター(DFKI)と協力して、自動車産業におけるAIの活用にあたって量子コンピューターをどのように活用できるかを探っている。

グーグルの量子コンピューター「ウィロウ（Willow）」が最近大きな注目をあびた。25もゼロが並ぶ数字にかかわる数学の問題をたった5分で解いてしまったが、この計算は今日最も速いスーパーコンピューターを使っても10の25乗年かかるものである。ただこれは実用とは無関係な純粋に学術上の話である。QAIACプロジェクトでは現実の課題に焦点を当てる。近年、量子コンピューターは驚くような進歩を遂げているが、いまだに開発のごく初期段階にある。理論上の利点のすべてを現実に実行できるわけではないので、産業界やAI関連の課題をどの程度速く解決できるようになるかはまだはっきりしていない。

QAIACの研究者は、量子コンピューターを実利用できる可能性をより正しく評価するための経験的知識を積むことにしている。昨年3月に終了した前身のプロジェクトQ（AI）2において、複数のドイツの自動車メーカーと協力して量子加速AIアルゴリズムの基盤を構築した。今回は具体的な活用に当たっての量子コンピューターのメリットを明らかに示すこと、あるいは少なくともそのための前提条件を創り出すことを目標としている。イノベーションを進め量子コンピューターの開発を加速するため、輸送ルートの設定、生産工程、あるいは製品開発における有限要素ネットワークの品質評価などの最適化問題と取り組む。

プロジェクトコーディネーターのシュトレンヴェルク博士（Dr. Tobias Stollenwerk）は量子研究の現状について次のように語る。

-　量子コンピューターの現状について
「開発は極めてダイナミックである。ユーリッヒ研究センターのJUNIQ量子コンピューターが様々な量子システムの利用を提供しているように、初期プロトタイプと商用システムは既に運用されている。しかし、いわゆる汎用量子コンピューターはまだ開発の初期段階にある。エラー率がまだ高いし、計算に使用する量子ビットもまだまだ小規模だ。グーグルのウィロウ・プロセッサーでは、論理量子ビットに使う物理量子ビット数は105であるが、実利用のためには数千ものエラー訂正された量子ビットが必要である。ウィロウは物理量子ビットが増えればエラー率が改善することを初めて実証した。しかし、実利用への道はまだ遠い」

-　産業利用はいつ頃可能となるか
「予測は難しいが、量子コンピューターが特定の産業利用でメリットを発揮するまでには、まだ10年から15年はかかる。ハードウェアもそうだが、アルゴリズムの面でも開発すべきことが多々存在する」

-　QAIACはどのような産業利用を考えているのか
「生産工程の計画が一つの利用例だ。ZFフリードリヒハーフェン社ではシャーシや駆動システムにより、いくつもの製品バリエーションが製造されている。量子コンピューターを使えば、多様な製品を製造するための計画や順序についてさらに最適化を進められる可能性がある。部品の搬送ルート計画も同様の応用例である。メルセデスベンツ社とは、部品の変形予測を行うため、量子コンピューターが有限要素計算をどの程度改善できるかを探求する。DFKIとは、これまでの方法より効率的な量子コンピューターを活用したハイブリッドAIプロセスを開発している」

（注）QAIAC：Quantum Artificial Intelligence for the Automotive Value Chainの略。連邦教育研究省（BMBF）のプロジェクトで、期間は2025年2月から2028年1月まで、資金総額は220万ユーロ（80.4%を同省が負担）、参加機関は上記4機関（ユーリッヒ、メルセデスベンツ、ZF、DFKI）で、ユーリッヒ研究センターが全体の調整役となっている。

[DW編集局]