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- 国・地域名:
- ドイツ
- 元記事の言語:
- ドイツ語
- 公開機関:
- ドイツ工学アカデミー(acatech)
- 元記事公開日:
- 2025/05/15
- 抄訳記事公開日:
- 2025/06/12
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宇宙産業の転換点:欧州の自立と産業連携が拓く“ニュー・スペース”時代
Innovationsökosystem Weltraum – wie Raumfahrt und Industrie zusammenwachsen
- 本文:
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(2025年5月15日付、ドイツ工学アカデミー(acatech)の標記発表の概要は以下のとおり)
「ニュー・スペース」というビジネスモデルが、研究者、公的機関、企業の連携を一層深化させ、宇宙開発に新たな時代を切り拓いている。この新たなイノベーション・エコシステムについては、イノベーション・サミット2025において、マンフレッティ( Chiara Manfletti)ミュンヘン工科大学宇宙モビリティ・推進工学教授、Neuraspace CEO、ヴォルター(Manfred Wolter)バイエルン州経済・地域開発・エネルギー担当、ヴェルナー(Jan Wörner)acatech会長により議論が交わされた。三氏は、最近バイエルン州に設立された「イノベーション・プラットフォーム」においても協働している。
宇宙開発は、かつての国家威信をかけたプロジェクトから脱却し、急速に発展するイノベーション・エコシステムへと転換しつつある。現在では、民生および防衛の両領域における不可欠な基幹インフラとしての役割を担っている。スタートアップから中堅企業、大企業に至るまで、幅広い企業群が宇宙産業への参入を加速しており、ドイツ産業連盟(BDI)の「ニュー・スペース・イニシアチブ」によれば、関連企業の約4分の3が他産業との有機的な連携を構築しているという。
ヴォルター氏は、宇宙産業分野におけるドイツ全体の優位性に言及し、バイエルン州をはじめとする複数の連邦州が、州境を越えた緊密な協力体制を構築している点を強調した。また、連邦政府も宇宙分野の戦略的重要性を踏まえ、研究・技術・宇宙政策を担う新たな枠組みの整備を進めている。
マンフレッティ氏にとっては、この地域における宇宙分野の強固なイノベーション環境こそが、ドイツ航空宇宙センター(DLR)および欧州宇宙機関(ESA)での勤務を経てミュンヘン工科大学に籍を移した大きな動機となった。さらに、彼女の研究チームは現在、欧州原子核研究機構(CERN)との学際的な連携体制の構築を進めている。
宇宙開発ミッションはしばしば「高コスト」と評されるが、その費用対効果について、ジャン・ヴェルナーは、「国民一人あたりの宇宙開発への年間税負担額は、ミュンヘンのオクトーバーフェストで提供されるビール一杯分に相当する程度にすぎず、その見返りとして、気象予測、地球規模の通信網、交通・航行支援といった実用的かつ広範な便益が社会全体にもたらされている。」と説明する。
ヴェルナー会長は、現在の国際的な地政学情勢についても言及した。ロシアによるウクライナ侵攻は、宇宙開発分野における国際協力に深刻な影響を及ぼしており、現在の国際宇宙ステーション(ISS)に類する枠組みが今後も存続し得るかは不透明である。月軌道に構想されている「ルナ・ゲートウェイ」についても、将来的な見通しは依然として不透明である。こうした状況は、むしろ欧州にとって自立した宇宙技術基盤を確立する契機となり得る。選択肢の一つとして、ルナ・ゲートウェイ型の宇宙ステーションを月周回軌道ではなく、地球周回軌道に設置する案も示されている。
ヴォルター氏も欧州が宇宙分野で自立的能力を強化すべきとの見解に賛同し、今後は州政府、連邦政府、EUがより一層緊密に連携することの重要性を強調した。
サミットの会場では、宇宙関連スタートアップによる活発な議論と具体的な提案が相次ぎ、宇宙産業が今や鍵を握る戦略分野として、また社会を支える不可欠なインフラとして、確固たる地位を築きつつあることが改めて確認された。
[DW編集局]