[本文]

国・地域名:
フランス
元記事の言語:
フランス語
公開機関:
国立科学研究センター(CNRS)
元記事公開日:
2025/06/23
抄訳記事公開日:
2025/07/16

欧州研究圏の深化と人材循環促進 EUとCNRSが共通価値に基づく研究単一市場を推進

Espace européen de la recherche : l’intelligence circule, la science avance

本文:

(2025年6月23日付、国立科学研究センター(CNRS)の標記記事の概要は、以下のとおり)

欧州研究圏(ERA)は、知恵と人材の自由な循環を促進し、科学の進展を後押しする枠組みであり、CNRSはその中核的な役割を担っている。

◇研究:欧州の戦略的方向性

2000年に欧州連合(EU)加盟国が採択したリスボン戦略において、ERAの理念が明文化された。各国首脳は、研究活動を国家・EUレベルで統合・調整し、「最高の頭脳」に魅力ある展望を提供することに合意した。

ERAは、科学者と知識が自由に往来する「研究の単一市場」の構築をめざすものである。またオープンサイエンス、ジェンダー平等、多様性、学問の自由といった共有すべき価値に根差した、研究とイノベーションの発展を支える共通の枠組みでもある。

◇研究基盤の戦略的活用

CNRSは、ERA域内における地域間格差の是正に継続的に取り組んでいる。研究基盤はERAの中核であり、欧州原子核研究機構(CERN)や欧州放射光施設(ESRF)などの大型施設は、世界中から卓越した科学者を惹きつけている。

ERAは、特に卓越したネットワークを通じて、新興分野を含む重要科学的分野における科学者のクリティカルマスの形成を使命としており、フランスでは「優先研究プログラム(PEPR)」が展開されている。

◇ERAの深化とマリー・スクロドフスカ・キュリー(MSCA)の展開

ERAの実装は、EUの研究・イノベーションの枠組み「Horizon Europe」を通じて推進されており、その一環である「Widening ERA」では、研究マネジメントの専門家ネットワーク形成や、研究者キャリアに関する調査等への資金支援が行われている。CNRSも、たとえばジェンダー平等分野において複数の公募に参加している。

MSCAは、約30年にわたり、研究者の国際的な移動、研修、キャリア開発を支援してきた。Horizon 2020では6万5,000人超を支援し、Horizon Europeでも同様の成果が期待されている。 CNRSはこの分野で欧州最大級の受益者かつ貢献者で、2014年以降、MSCA受賞者は累計約900名に上る。

◇「Choose Europe for Science」構想

2025年5月5日、フォン・デア・ライエン欧州委員長とマクロン大統領が「Choose Europe for Science」構想を共同発表した。2025年から2027年まで総額5億ユーロが投入され、 外国人研究者への移動支援の倍増、ポスドクから安定雇用への移行を支援するMSCAのパイロットプログラム等が実施される。CNRSが2025年4月に始動させた「Choose CNRS」も、同様の理念にもとづく。

MSCAでは、国際的な移動を促す「モビリティ規則」が適用される。また、MSCAは欧州規模で次世代の専門家を育成することを目標としており、高水準の給与も提供されており、欧州外からの人材誘致において競争力を有している。

◇MSCAから欧州研究会議(ERC)へとつなぐ研究キャリア

MSCAの受賞者がCNRSに研究者として採用され、ERC助成金の獲得にも成功するなど、MSCAが研究キャリアの成長を後押しする例がある。なかでも、ジェンダー平等を重視する制度設計は、差別的経験を持つ研究者にとって大きな後押しとなっている。

欧州委員会は2026年半ばを目処に、研究キャリアに関する法的拘束力を持つ共通基準の立法提案を予定している。フォン・デア・ライエン委員長は、これにより学問の自由を欧州法に明記する機会と捉え、トランプ新政権下で研究の自由が損なわれた米国の科学者にとっても、EUの価値を訴求できる契機となると述べている。

[DW編集局]