[本文]

国・地域名:
フランス
元記事の言語:
フランス語
公開機関:
国立科学研究センター(CNRS)
元記事公開日:
2025/09/09
抄訳記事公開日:
2025/10/07

CNRS、Horizon Europeの予算倍増を歓迎、一方で基礎研究の扱いに懸念

Horizon Europe : « La voix du CNRS a de l’importance » 

本文:

(2025年9月9日付、国立科学研究センター(CNRS)の標記記事の概要は、以下のとおり)

欧州委員会(EC)は2025年7月16日、欧州複数年次財政枠組み(2028〜2034年)に位置づけられる研究・イノベーション枠組みプログラム(引き続きHorizon Europe)の提案を公表した。その内容について、在ブリュッセルのCNRS駐在事務所ジャン=ステファン・デルサン所長に聞いた。

――2028年から始まる今回の提案をどのようにとらえるか。

デルサン所長:CNRSは、Horizon Europeが2021–2027期に比べ規模を2倍(1,750億ユーロ)とする方針を歓迎し、特に第1の柱での基礎研究の維持、欧州研究会議(ERC)予算の倍増、欧州イノベーション会議(EIC)資金が3倍になったことを高く評価している。

提案は研究とイノベーションをEUの競争力強化の中核に据え、科学的卓越性の強化と主要分野への投資を通じてEUの技術主権を確保することを目指している。

CNRSは基礎研究の卓越性がHorizon Europe を構成する全ての柱に行き渡ること、研究とイノベーションの連続性を保障する仕組みを重視する一方、懸念も残る。例えば、Horizon Europeが欧州競争力基金(ECF)と緊密に連携し、第2の柱の大部分がECF主導で技術成熟度評価(TRL)の高い先端イノベーションを優先すれば、TRLの低い基礎研究が不利になる恐れがある。Horizon Europe の各柱・分野における作業プログラムの策定は、科学的専門家の手に委ねられることが重要だ。

――CNRSの意見は反映されているのか。

デルサン所長:CNRSのポジションペーパーの多くが提案に反映されている。特に研究予算の大幅増とその独立性が確認された点は重要で、独立性は6月4日にG6と欧州議会の科学技術の将来のためのパネル(STOA)が共催した行事で欧州委員会委員長により確認された。

また、マリー・スクォドフスカ・キュリー・アクション(MSCA)支援の強化、研究インフラ支援の改善・簡素化、研究とイノベーション間の連続性の強化も提案に反映されている。一方で、CNRSが求めた若手向けの「白紙募集(appels blancs)」は必ずしも採用されておらず、ECFの役割の拡大は共同研究の自主性に疑問を投げかける点もある。

――新規プロジェクト「ムーンショット」とは?

デルサン所長:「ムーンショット」は、欧州が長期的かつ戦略的に主導権を握るべき野心的なテーマや大型インフラを対象とする構想である。具体例として欧州原子核研究機構(CERN)の将来の円形衝突型加速器、次世代AI、量子コンピューティング、核融合、欧州の月探査などが挙げられているが、実際の案件や配分規模はまだ定まっていない。

――交渉のスケジュールは?

デルサン所長:この提案を巡る交渉は今後2年で行われ、2025年後半に欧州理事会・
欧州議会・EC間で開始され、2026年末までに政治的合意、2027年に正式採択、2028年1月1日に発効する見通しだ。CNRSは主要な受益者として、AIなど重要分野も含め委員会の戦略的協議に積極的に参加し続ける。

[DW編集局]