[本文]

国・地域名:
ドイツ
元記事の言語:
ドイツ語
公開機関:
ヘルムホルツ協会(HGF)
元記事公開日:
2026/05/07
抄訳記事公開日:
2026/06/19

グリーン水素戦略は地政学的リスクを考慮すべき

Strategien für grünen Wasserstoff sollten geopolitische Risiken einbeziehen

本文:

(2026年5月7日付、ヘルムホルツ協会(HGF)の持続可能性研究所(RIFS)の標記発表の概要は以下のとおり)

エネルギー多消費型産業向けの多くの水素戦略は、地政学的な不確実性を軽視している。多くの場合、安定した通商関係と信頼できる同盟関係を前提としているが、紛争と制裁の拡大により疑問視されるようになってきた。Nature Reviews Clean Technologyに新たな研究結果を発表した研究者らは、政策立案者や企業は代替的な将来シナリオをより重視すべきだという結論に達した。

「鉄鋼や化学のようなエネルギー多消費型産業は、二酸化炭素排出量の大幅な削減を求められており、そのためにグリーン水素への依存を強めている。それに伴い、将来のエネルギー多消費型生産は再生可能な水素を安価に生産できる場所で行われるのか、それとも水素を輸入する現在の産業中心地にとどまるのかという戦略上重要な問題が生じる」と、ドイツ地球科学研究センター(GFZ)の持続可能性研究所(RIFS)のアイケ氏(Laima Eicke/筆頭著者)は述べる。研究者は、輸送インフラ、投資条件、産業政策のような不確実性の大きな中心的要素が、さまざまな地政学的条件の下でどのように相互に作用するかを調査した。三つの可能性のあるシナリオを分析し、それぞれの環境とグローバルな公正性への影響を検討した。

第一の燃料転換シナリオは現在、欧州で最も議論されており、多くの国の水素戦略で暗黙の前提となっている。このシナリオでは、水素は既存の産業中心地に輸入され、そこでの生産プロセスが水素利用へ切り替えられる。大規模な輸送インフラが整備され、通商関係が安定し、水素生産国がさらに進んだ産業的付加価値の創出に自らの利益を見いださないことが前提となるが、この最後の点は疑問である。世界の水素生産コストの大きな差や、資源の豊かな国々で高まる産業政策上の野心により、投資や生産工程が従来想定以上にこれらの国々へ移る可能性がある。燃料転換シナリオだけに依拠する場合、結果的に適合しないインフラへの誤投資となる恐れがある。

第二の立地移転シナリオでは、エネルギー多消費型産業は、再生可能エネルギーが安価かつ豊富に存在する地域、多くの場合、低・中所得国に立地することになる。輸送距離、コスト、二酸化炭素排出量が下がるので、これらの国々には産業発展の機会が生じる。一方で、既存の工業地域には、経済構造改革を社会的にどのように設計するかという新たな課題が生じる。グローバルサウスの多くの国がこの機会を実際に活用するには、外部とのパートナー関係や支援が引き続き必要になる可能性が高い。

第三のハイブリッドシナリオはこの中間となる。水素は分散的に製造され、現地でアンモニアや直接還元鉄のような中間製品へ加工され、これらは鉄鋼のような最終製品を製造する既存の産業拠点に輸送される。研究結果は、このシナリオが完全な立地移転によるコスト優位性の大部分を実現しつつ、付加価値をより多くの地域に分散できることを示している。グリーン水素の生産国にとっても、輸入国にとっても魅力的な方法となり得る。

結論は次の通りである。水素・産業戦略は、安定した同盟関係と自由主義的な通商条件を暗黙の前提とするのではなく、代替的な地政学的未来を明示的に考慮すべきである。輸入に依存する経済は、どの産業を戦略的に支援すべきかを比較検討し、さまざまなシナリオの下でも持続可能なインフラ決定を行うべきである。グローバルサウスの資源の豊かな国々にとっては、適切な枠組み条件と地域協力を通じ、現在起きている変革から実際に利益を得るための前提条件を築くことが重要である。

[DW編集局]