ビジネス・エネルギー・産業戦略省（BEIS）は2017年1月23日付で、英国民に利益をもたらす、高いスキルを備えた競争力のある経済を実現するべく、策定中の産業戦略のグリーンペーパー「Building our Industrial Strategy 」を公表した。その中で示されている柱となる10項目の政策について、概要を以下に記す。
なお、同グリーンペーパーを議論のたたき台として、英国政府は2017年4月17日まで広く国民から意見募集を行う。これら意見や議論をもとに政策案に修正が加えられ、最終的にホワイトペーパー（白書）のかたちで公表される予定である。

● 科学・研究・イノベーションへの投資

より革新的な経済を目指し、世界をリードする英国の科学基盤をさらなる実用化に活用し、新技術を開発し、英国の成長を牽引する。

すでに進行中の施策として次のものがある。
・研究開発投資を総額で47億ポンド増額し、2020～2021年までに年20億ポンドを追加する。
・「産業戦略チャレンジ基金」を新設し、ロボット技術、クリーンエネルギー、バイオテクノロジーなどの科学・イノベーション能力への英国の投資に資する。
・研究開発施設・知識共有向けの新規投資に取り組んでいる。生物医学カタリストの拡張・強化に2020-21年までに1億ポンド、さらに技術移転や企業との連携に対する大学の協力促進目的で2020-21年までに1億ポンドを追加する。
・英国内の新規8か所で科学イノベーション監査のさらなる支援を実施する。
・研究開発の税環境調査を開始し、民間セクターの投資を刺激して英国を研究開発のさらなる競争力のある場とするために、さらになすべきことがあるかどうか検討している。
・EU離脱、大学、研究、イノベーションに関するハイレベル・フォーラムを設置した。

新たな取り組みとして次のような施策がある。
・本ペーパーにより、産業戦略チャレンジ基金向けの優先課題に関する協議を開始する。
・自動車分野など一定範囲の新技術の重要性を踏まえ、政府はバッテリー技術、蓄電、グリッド技術に関する研究拠点として機能する新たな研究機関の設置について検討するようマーク・ウォルポート（Malk Walport）政府主席科学顧問に要請しており、2017年初めに報告を受ける。
・知的財産権のライセンス供与やスピンアウトの場合の持ち分取得の方法など、様々な研究機関における実用化の方法について独立した研究を委託する。
・チャレンジ表彰プログラムを立ち上げて、英国出身の発明家の潜在能力を活用し、ユーザー主導イノベーションの刺激策を狙う。この表彰は、Nesta（英国国立科学・技術・芸術基金）のチャンレンジ・プライズ・センター（Challenge Prize Centre）を通じて実施される予定である。
・イノベーション協力やライセンス供与の機会を促進すべく、知的財産権制度によって創出されるインセンティブを最大化する方法を検討する。
・英国の計測・計量戦略を明確にする。世界の主導的な計測・計量科学技術を提供する国家計測・計量システムを英国の産業界が有効活用できる枠組みを確立する。

● 技能の開発
独自の技術教育制度を構築し、科学、技術、工学、数学、デジタル技術能力における重要な能力の強化を図り、雇用者が現在および将来において必要とする技能を国民が持てるようにする。

● インフラのグレードアップ
デジタル、エネルギー、輸送、水、洪水対策インフラのグレードアップを実施し、中央政府の投資と地方の成長優先課題とをより効果的につなぐ。

● 企業の立ち上げと成長の支援
英国全土の企業や起業家を支援し、企業が成長のための融資や広範な支援を受けられるようにし、企業が長期的に投資できる適切な環境を持てるようにする。

● 公共調達制度の改善
公共調達により、革新的な新製品・サービスの牽引、技能の強化、英国のサプライチェーンの発展、中小企業向けのさらなる機会創出による競争力の強化を可能にする。

● 貿易・国内向け投資の振興
英国を自由貿易における世界のリーダーにする。そのために英国の輸出を促進・支援し、今後の通商関係を構築し、主要な海外契約の獲得に向けてより積極的な方法を創案する。

● 手ごろな価格のエネルギー供給とクリーンエネルギーの成長の実現
企業向けのエネルギー・コストを低く抑え、新技術で必要とするエネルギー・インフラを構築し、低炭素経済に向けた移行における経済的利益を確保する。

● 世界を主導するセクターの育成
英国が世界的に卓越した領域を構築して、新しいセクターの成長を支援し、セクター政策を通じた産業界の変革・グレードアップで企業が主導権を握れるよう支援する。

● 英国全土における成長の牽引
地方の能力を足掛かりとし、主要なインフラへの投資、技能のレベル向上、そして地方の専門能力への後押しを行うことで、地方のポテンシャルを十分に引き出すのを阻む要因に対処する。

● 適切な地方公共施設の創設
地方の能力を最大化するべく、一般住民、産業界、環境を支援する強力な組織と施設を創設する。それには政府機関や文化施設の場所の見直しを含む。

[DW編集局]