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- 国・地域名:
- 米国
- 元記事の言語:
- 英語
- 公開機関:
- 全米科学・工学・医学アカデミー(NASEM)
- 元記事公開日:
- 2017/07/20
- 抄訳記事公開日:
- 2017/09/15
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米国の送電網は脆弱。電力システムの回復力向上が必要
- 本文:
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2017年7月20日付の全米科学・工学・医学アカデミー(NASEM)による報道発表の概要は、以下のとおりである。
NASEMは、米国の電力システムの脆弱性に関する新しい報告書を発表した。米国の送電網は増加する自然災害や悪意ある攻撃等の様々な脅威に対して脆弱な状態にあり、そのような脅威が現実のものとなれば数十億ドルの被害と人命の喪失をもたらす広域・長期間の停電が引き起こされる恐れのあることがこの報告書により明らかとなった。
この報告書は、複数の電力供給区域または州にまたがって3日間以上継続するような大規模停電に対する米国の脆弱性をいかにして軽減するかに焦点を絞って検討を行った。このような停電を引き起こしかねない事象には、ハリケーン、地震、太陽嵐、サイバー攻撃、物理的攻撃や重大な操作ミスが含まれる。このような長期間の停電が起きる可能性を完全に取り除くことはできないが、電力システムの回復力向上については多くの実行可能な対策があることをこの報告書は明らかにした。
報告書をまとめた委員会の委員長M. Granger Morganカーネギーメロン大学教授は、次のように語った。
「この規模の停電は何百万もの人々から電気を奪い、数十億ドル規模で推測・積算されるような経済損失をもたらすとともに、健康と公衆の安全を脅かし、さらには国家安全保障を損なう恐れもある。自然災害による停電は一般に考えられている以上に頻繁に起きている。米国はまだ大規模な物理的攻撃やサイバー攻撃を受けたことはないが、どちらのリスクも重大であり、増大しつつある。」この委員会は、電力システムの回復力向上を図るため、総合的な視点から取り組むべき事項として次の提言をまとめた。
● 経済、社会等に甚大な悪影響を及ぼす大規模で長期間にわたる送電網の機能停止としてあり得る事態を体系的に予測し、評価するプロセスを改善すること。
このプロセスは、そのような事態が(送電網によって維持されている)重要な公共インフラや公共サービスに依存する米国の国家機能に及ぼす影響にも焦点を当てるべきである。● 破壊的な事象に備えるため、電力業界は地域・州当局、連邦エネルギー規制委員会(Federal Energy Regulatory Commission)、北米電力信頼度協議会(North American Electric Reliability Corp.)と連携して地域緊急事態対応訓練に対する取組みを拡大すること。
これらの訓練には、偶発的な故障、自然災害、サイバー攻撃や物理的な攻撃、その他の大規模な電力喪失を想定した損害が含まれなければならない。● 重要な電力インフラの堅牢さと送電網の機能停止に対する社会の対応能力を確実なものとするため、物的リソースに対する官民による投資を拡大すること。
例えば、エネルギー省(DOE)、国土安全保障省(DHS)等の機関は、バックアップ電源(例えば米国陸軍工兵隊が保有する移動式発電機隊のようなもの)に対する需要とそれに見合った供給能力の保有状況を確認できるような、より信頼性のある在庫調査を進めるべきである。また、投資は、病院、初動対応者、水道、通信システムへの電力供給といった重要サービスを維持・復旧する能力向上のための取組みに対しても振り向けられるべきである。また、この報告書には、連邦、州および規制当局のそれぞれに対して、送電網の回復力を向上させるために各機関が実行できる対策を詳述した提言も含まれている。例えば、DOEに対しては、送電網の運用と復旧手順をより確かなものとするために多くの研究、開発、実証試験等を支援すべきとしている。電力インフラの所有者と運営者に対しては、これまでの停電を体系的に再調査し、DOEと緊密に協力して送電網の回復力向上に資する技術、運用体制および訓練の実証評価に取り組むべきとしている。
なお、この調査はDOEの支援により実施されたものである。
[DW編集局+JSTワシントン事務所]