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- 国・地域名:
- フランス
- 元記事の言語:
- フランス語
- 公開機関:
- フランス科学アカデミー
- 元記事公開日:
- 2020/07/03
- 抄訳記事公開日:
- 2020/09/28
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科学アカデミーによる2021~2030年複数年研究計画法(LPPR)案の分析
Analyse du projet de loi de programmation pluriannuelle de la recherche (LPPR) 2021-2030
- 本文:
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2020年7月3日付科学アカデミー(AS)の標記発表の概要は以下のとおり。
本分析では、3つのテーマ① 研究の資金支援、② 雇用とキャリアの魅力、③ イノベーションと研究の提携、を中心に、法案作成に対するASの寄与として、提案を行った。
● 研究の資金支援
- ASは国立研究機構(ANR)の必要予算を、採択率の向上、裁量額の拡大、委託契約額の増加を可能にするべく、15億ユーロ(2018年比で2倍)に設定していた。LPPRの提案が17億ユーロに達することは喜ばしい。ただし、この予算が達成されるのは、2027年である。ASは、ANRの予算の増加があまりにも緩慢であることを懸念しており、その結果、ANRは3~4年経たなければ望ましい研究開発ツールになり得ない。最初の数年間は、提案された予算の増額をもって( 2021年に1億4,900万ユーロ増、2022年に1億4,400万ユーロ増。当初の2020年予算法との差異は 2億9,300万ユーロに到達)、不採択率の大幅削減(目標は85%から70%とすること)、委託契約額と間接経費の拡大、「ジュニアプロフェッサー職」の資金支援などを、どのように可能とするかが見えない。
- 過去10年間で職員数の大幅減を経験した技術職員や事務職員の場合、採用数が退職数を上回ることとなる。これに、博士号契約とCIFRE契約、ANR予算の増加(上記を参照)、「ジュニアプロフェッサー職」の創設に関する取り組みを追加すると、LPPRは常勤職員と契約職員の両方の研究職人員の大幅な増加を目指している。アカデミーはこれらの計画された展開を歓迎する。
- ASは、各研究機関に対して、実際の研究方針を策定し、特に各研究室の基盤的予算の増額を可能にするような幅を与える必要があると考えた。政府はその選択をしなかった。追加のリソースは、研究室に与えられるANR資金の一部(間接経費)を2倍にする(2030年までに19%から40%に増やす)ことによってのみ、各機関に配賦される。これは、LPPRでは、各研究機関の予算増の唯一のメカニズムとなっている。2030年までに、これは現在の状況(5,000万ユーロ)と比較して約4億5,000万ユーロの追加予算(つまり大幅増)に相当する。ただし、この追加の資金配分は、限られた数の施設に集中することを意味する。ANR契約の取得に関して最も効率的な研究ユニットを擁する機関のみが対象となる。この増加にもかかわらず、職員数の増加とその給与の増加(これは良いことであるが)を考えると、ASが推奨している研究機関予算における人件費の占める割合低減は不可能である。各機関の研究予算では、現在、世界で最も模範的な施設で見られる70%をはるかに上回っている。
- ASは、数学、物質の科学、生命の科学におけるフランス大学学士院(IUF)のポスト増など、IUFを強化するよう提案した。この提案が受け入れられなかったことは非常に残念である。
- ASは、研究プロジェクトの即時開始を可能にするべく、採用されたすべての若手研究者・教職研究者に着任時資金(実験科学では20万ユーロ程度)を割り当てるよう要求していた。LPPR法案自体では明記されていない。
● 雇用とキャリア
- 博士課程学生、研究者、教職研究者の不当なほどの低給について、法案は、より公正で魅力的な道を開く目的で一連の措置を規定している。これは特に、次の点に関するものである。①新規採用者の給与の引き上げ。これは、現在の最低賃金(SMIC)の1.4倍から最低でも2倍 に変更される。②その他の者についてのキャリアの逆転を回避する大幅補償方針。これは、2021年の時点で、給与2,600万ユーロ、報酬評価9,200万ユーロ、合計1億1,800万ユーロの国による追加投資に相当する。ASは、この給与問題の重視に満足している。これは、フランスの研究職の魅力を回復するのに役立つ。
- ASはまた、研究を通じた教育の魅力が失われることを懸念しており、毎年博士号取得段階に到達する学生の数が10年間継続的に減少しており、それがフランスを同等の諸国から遠ざけている。LPPRはこの懸念に対応して、博士課程教育の支援予算の増額で対応している。高等教育・研究・イノベーション省(MESRI)が資金支援する博士契約の数の20%増のほか、全ての博士課程学生の資金支援に向けて、CIFRE契約の件数増、研究手当て 30%の再評価などがある。これらの措置はすべて、ASが2019年に行った提案によく対応している。ただし、LPPRは、学生と企業の間に私法の博士号契約を導入している。これは企業が、高等教育施設に在籍する従業員に研究活動を委託し、研究を介して従業員の教育に参画する場合のものである。ASは、高等教育研究施設の研究室が全く参加していないこの新しい博士号契約に賛成していない。逆に、ASは、LPPRによる私法の新しいポスドク契約の提案を支援する。これにより、産業・商業的性格の公的機関(EPIC)はポスドク研究者を最大4年間(現在の18か月ではなく)採用することができる。
- ASは、研究者・教職研究者の採用促進目的で、公務員のルートと並行するルートの設定を提案した。これは、採用に関して独立した機関にさらなる柔軟性を与える。ある意味で、この提案はLPPRに反映され、新しい契約(ここではジュニアプロフェッサー職と称するが、国際的には「テニュアトラック」に相当)が創設される。従来の採用に加えて、2030年までに年間300ポストが目標とされている。留意すべきことは、このジュニアプロフェッサー職の設立に関連する財務環境は、(予算の一部をそれに充てる)ANRから得られることである。ここに、既存の「パイプ」のみを使用する LPPR のロジックが見られる。
- LPPRはまた、ASが考慮していなかったミッションCDI(無期限雇用契約)創設を導入した。このミッションCDIにより、プロジェクト又は研究ミッションの期間中、資金に関係なく、契約スタッフを永続させることができる。
● イノベーションと提携研究
この領域での過去20年間の大幅な進歩に基づいて、国は多数の技術移転組織を創出してきた。ASは、複雑すぎると思われるシステムを簡素化し、資金支援の方法を変更することを提案していた。法案に添付された報告書にこれが記載されているが、この状況を是正する具体的な提案はなされていない。
[DW編集局+JSTパリ事務所]