[本文]
-
- 国・地域名:
- フランス
- 元記事の言語:
- フランス語
- 公開機関:
- 国立情報科学・自動化研究所(INRIA)
- 元記事公開日:
- 2022/08/10
- 抄訳記事公開日:
- 2022/09/22
-
ANRの支援を受けるMUSCAのOVOPAUSEプロジェクト
MUSCA, des experts en modélisation multiéchelle pour la biologie
- 本文:
-
(2022年8月10日付、国立情報科学・自動化研究所(INRIA)の標記発表の概要は以下のとおり)
フランス国立情報科学・自動化研究所(INRIA)のMUSCA(※)プロジェクトチームは、複雑な生物学的プロセスに適用される数学的モデリング手法を専門とし、社会的な問題に関わる生理的変化の理解に貢献するものである。そのOVOPAUSEプロジェクトが、国立研究機構(ANR)の支援を受けることとなった。
■数学と生物学の架け橋
MUSCAは2020年、獣医学部出身の生物数学者で、INRIAの研究責任者であるフレデリック・クレマン(Frédérique Clément)氏、数学者で、CNRS-INRAE-トゥール大学合同ユニット「生殖と行動の生理学」に所属するロマン・イビネック(Romain Yvinec)氏、国立農学・食料・環境研究所(INRAE)のMaiAGE ユニット研究責任者のベアトリス・ラロッシュ(Béatrice Laroche)氏など、BIOSとMaiAGEの長年の共同研究者らによって、Inria-INRAE-CNRS合同プロジェクトチームとして正式に発足した。いわば、数学と生物学の架け橋チームである。
■研究の軸としての細胞
細胞は、周囲のシグナル(ホルモンや代謝物)に応答して、細胞内ネットワークの情報を統合して生体機能を支え、フィードバックループの中で臓器間の調整をしている。MUSCAは、この生物の最小組織単位であり、臓器レベルおよび細胞内レベルで起こる現象の単位である細胞に焦点を当てている。MUSCAが行うのは、細胞動態と組み合わせたシステム生物学であり、数学的モデルと生物学的データの間を関係付け、システムのさまざまな構成要素間の相互作用を考慮した数学的モデリングによって全体を理解することである。
■ノウハウはフォーマリズム(形式)の開発
MUSCAは、古典的な細胞シグナル伝達モデルとは異なり、細胞の空間構造の重要性を認識可能にした最新の知見に基づいている。コンパートメント(細胞内区画)には、成長、分離、融合など実に様々な動きがあり、これが細胞シグナル伝達に影響し、最終的に細胞応答に影響する。この細胞内ネットワークと細胞の行動決定に関わるデコードの時空間的複雑性が、「COMPARTMENTAGE」という探索活動を生み出すこととなった。その目的は、「細胞外シグナルによって引き起こされる生化学反応カスケードに影響を与える、非常に動的な細胞内コンパートメントのモデリングに適合したフォーマリズムの開発」である。
MUSCAは、形式化する方法、モデルを厳密に数学的に実行する方法、モデルを数値的に操作する方法、生物学的知見に沿った数学モデルのパラメータを推定する方法のすべてを熟知している。それが、最先端の技術でも解決できない複雑な生理学上の問題に対して、新たな数学的ツールを作り上げることができる、というMUSCAの強みとなっている。
■生殖器系が最重要研究テーマ
チームの主要研究対象は生殖器系であり、その中でも重要なテーマは、胚期から生殖寿命の終わりまでの雌配偶子(卵母細胞)集団の進化の解析である。これは、卵胞の初期ストックの減少と、排卵までの成熟段階に応じた卵胞の分布を追跡することを可能にする集団動態の数学的モデルに基づいている。これらの理解を深めることは、現代の西洋社会の重要な課題である生殖資本の維持と生殖寿命の延長に有益であり、OVOPAUSEプロジェクトがANR の支援を受けることとなった所以である。
(※MUSCA:英MUltiSCAle populations dynamics for physical systemsに由来)
[DW編集局+JSTパリ事務所]