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- 国・地域名:
- EU
- 元記事の言語:
- 英語
- 公開機関:
- 欧州委員会(EC)
- 元記事公開日:
- 2022/09/14
- 抄訳記事公開日:
- 2022/10/14
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欧州重要原材料法:石油・ガス以上の重要度を持つ原材料の確保
Critical Raw Materials Act: securing the new gas & oil at the heart of our economy
- 本文:
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(2022年9月14日付、欧州委員会の標記発表の概要は以下のとおり)
フォン・デア・ライエン委員長は、このほど行ったEUの一般教書演説で、以下のように述べた。
「リチウムと希土類は、間もなく石油とガスよりも重要になるであろう。希土類の需要だけでも、2030年までに5倍に増加する。(中略)石油やガスの場合のように、再びEU域外へ依存的になることは避けなければならない。(中略)抽出から精製、加工からリサイクルまで、サプライチェーン全体で戦略的プロジェクトを立ち上げる。そして、供給が危機に瀕している分野で戦略的備蓄を行う。これが、今日私が欧州重要原材料法を発表する理由である。」
委員長が指摘したとおり、必要な原材料への確実で持続可能なアクセスなしには、世界初の気候中立な大陸になるというEUの目標は覚束ない。実際、重要原材料がなければ、デジタルの10年をリードすることはできず、防衛能力を開発することもできない。これらの必要不可欠な原材料の多くについて、世界市場は急速に増加する需要に応えることができなくなる。構造的な供給不足のリスクを考慮すると、貿易の多様化は、必要ではあるが十分ではない。EUのグリーン移行およびデジタル移行の両政策は、我々のサプライチェーンが機能するかどうかによって成否が決まる。
レアアースと永久磁石の準独占国であり、その価格が過去1年だけで50~90%上昇している中国を例にとってみる。原材料の供給は、まさしく地政学的ツールになっている。2010年、中国はレアアースの輸出を世界的に削減し、日本を完全に遮断して、拘束された中国のトロール漁船の船長を釈放するよう日本に圧力をかけた。
一方、いわゆる「志を同じくする」パートナー、すなわち米国、日本、韓国では、重要原材料の抽出、処理、リサイクルでの依存を減らすべく、大規模な支援と投資を展開している。その結果、我々は重要原材料の供給確保とリサイクルをめぐる世界的な競争を経験している。
これはすべての産業エコシステムにとって大きな懸念事項であり、散発的措置を余儀なくされる場合も見られる。たとえば、先月、ドイツの大手自動車メーカー 2 社がカナダ政府とのパートナーシップに署名し、特に持続可能な重要鉱物のサプライチェーンに関する協力を深めている。
欧州の価値観と基準に従い、野心を持って迅速に行動するために、「欧州重要原材料法」を提案する。EU重要原材料法による支援策の内容を以下に示す。
1.戦略的用途に重点を置く
重要原材料法は、どの原材料が特に戦略的であるかについて共通の見解を示す必要がある。これには、経済的重要性、供給集中度、戦略的用途、予想される需給ギャップなど、両移行および防衛政策のニーズに特に戦略的に関連する原材料を特定するための基準設定が必要となる。これは、民間投資家に対して、何が優先的なニーズであるかに関する情報を与え、イノベーションや代替など欧州および各国の取り組みを導くことになる。
2.欧州各当局のネットワーク
欧州レベルでの施策がなければ、相乗効果を逃すことになり、一部の加盟国だけが他の加盟国よりも強力な能力開発を続けることになる。欧州レベルの施策に基づいて、原材料当局の真の欧州ネットワークを構築し、リスクを予測する必要がある。このネットワークは、産業界が市場の混乱、価格上昇、供給不足のリスクを予測し、適切な多様化、備蓄、投資の決定を下せるようにする監視およびストレステスト機能を持つことになる。
3.より強靭なサプライチェーン
採掘から精製、加工、リサイクルに至るまで、プロジェクトを支援し、より多くの民間投資を引き付けて、より強靭なサプライチェーンを構築する必要がある。しかも、社会・環境の最高基準を満たすという欧州流で、である。
EU での対象となる原材料プロジェクトの展開を促進するため、欧州委員会は、加盟国からの提案に基づいて、欧州の利益とみなされる戦略的プロジェクトを列挙する権限を与えられる。これらのプロジェクトは、資金調達に必要な合理的手続きと適切なアクセスの恩恵を受けることができる。その結果、探鉱作業の開始から採掘または精錬施設が開設可能になるまでの期間は、もはや数十年もかかる問題ではなくなる。バッテリー、半導体、水素の分野におけるEUの産業同盟では、パートナーシップの構築、プロジェクトパイプラインの特定、官民資金の動員、規制上の課題への対処に成功している。重要原材料に関しても、必要な投資を動員するべく、欧州共通利益の重要プロジェクトへの財政的参画を強化し、新たな欧州主権基金(European Sovereignty Fund)を創設する。
目標実現に向けて、指標を法律に導入することもあり得る。たとえば、2030 年までに精製リチウムに対するEU需要の少なくとも30%を EU内で調達する、または2030年までに関連する廃水に含まれる希土類元素の少なくとも20%を回収するという目標を設定できる。
4.強く持続可能で公平な競争環境
規準などの単一市場ツールを利用して、強く持続可能で公平な競争環境を確保する必要がある。たとえば、今日では、採掘活動の環境的・社会的パフォーマンスに関する多数の認証制度が存在する。欧州は、そのような認証制度の合理化と統合を主導できる。そうすることで、EUでの原材料施策は国際競争力を持ち、民間投資を呼び込むことになる。
一方で、環境政策のパラドックスに対処する必要もある。例えばEUソーラー戦略は、欧州で太陽光発電によるエネルギーの大規模展開を目指している。この目標を達成するために、我々は中国からのポリシリコン輸入に大きく依存しているが、それは欧州での同等品に比べてはるかに多くの二酸化炭素を排出しながら生産されている。公平な競争条件を維持することは、特に戦略的な備蓄能力の処理や二次原材料の推進において、単一市場域内でも同様に重要である。戦略的備蓄は、サプライチェーンの混乱や不均衡を防ぎ、将来の市場の混乱に対する保険として機能する手段となる。しかし、チェックしないままに放置しておくと、加盟国間で不一致が発生し、一部の加盟国が他の加盟国よりも備えが整った状態となり、サプライチェーンに混乱が生じる可能性がある。
リサイクルと再利用に関して、加盟国は現在、廃水に関連する規定をそれぞれ異なって解釈しており、EU法の断片的な実施につながり、自由な流通に対する障壁を生み出している。
特に廃棄物に的を絞った法改正が、循環経済の目標に沿って、戦略的原材料の高品質のリサイクルと二次原材料の効率的な市場を促進することになる。 [DW編集局]