[本文]

国・地域名:
英国
元記事の言語:
英語
公開機関:
英国研究・イノベーション機構(UKRI)
元記事公開日:
2023/06/05
抄訳記事公開日:
2023/08/17

がんの発生を止める細胞プロセスの詳細が明らかに

Details of cellular process which stops cancer developing revealed

本文:

(2023年6月5日付、英国研究・イノベーション機構(UKRI)の標記発表の概要は以下のとおり)

研究者らは、がんの予防に重要な役割を果たすプログラム細胞死(アポトーシス)の初期段階の分子機構を初めて明らかにした。

Science Advances誌にこのほど掲載されたこの研究は、オックスフォードシャーにある科学技術施設会議(STFC)のISIS中性子・ミュオン源(ISIS)のルーク・クリフトン博士が主導した。スウェーデンにあるウメオ大学および欧州核破砕中性子源(ESS)のパートナーと協力して研究を行った。これは、アポトーシスの原因となる細胞タンパク質を研究する、このチームによる一連の共同研究の中で最新のものである。

■ 生と死のバランス

アポトーシスは人間の生命にとって不可欠であり、阻害されると、がん細胞が増殖し、がん治療に反応しなくなる。これは、BaxとBcl-2として知られる、相反する役割を持つ2つのタンパク質によって制御されている。正常細胞では、可溶性のBaxタンパク質が古くなった細胞や病気の細胞を除去する役割を担っており、活性化されると細胞のミトコンドリア膜に穴を開け、細胞死を引き起こす細孔を形成する。これは、ミトコンドリア膜内に埋め込まれているBcl-2によって相殺され、Baxタンパク質を捕捉して隔離することで不意の細胞死を防ぐ働きをする。しかし、がん細胞では、生存タンパク質Bcl-2が過剰に生産され、細胞増殖が抑制されなくなる。このプロセスは、がんの発生に不可欠であると長い間理解されてきたが、Baxとミトコンドリア膜が果たす正確な役割はこれまで不明であった。

■ 重要な新識見

研究チームは、ISISの最先端SurfおよびOffspecを利用した中性子反射率測定法(neutron reflectometry)によって、Baxがミトコンドリア膜内の脂質とどのように相互作用するかをリアルタイムで解析した。その結果、Baxが膜に細孔を形成するときに、脂質を抽出して次の2段階のプロセスを経てミトコンドリア表面にクラスタを形成することがわかった:
①ミトコンドリア膜表面へのBaxの迅速な吸着
②膜を破壊する細孔とBax-脂質クラスタの同時形成

Baxによって引き起こされた細胞死において、膜撹乱中にミトコンドリアの脂質が関与している直接的な証拠が発見されたのは、これが初めてである。

このメカニズムをさらに探究するため、ISISではすでに継続的な研究が計画されている。

[DW編集局]