[本文]

国・地域名:
ドイツ
元記事の言語:
ドイツ語
公開機関:
マックスプランク協会(MPG)
元記事公開日:
2024/05/08
抄訳記事公開日:
2024/07/01

欧州はどこへ行くのか?

Quo vadis, Europa?

本文:

(2024年5月8日付、マックスプランク協会(MPG)の標記発表の概要は以下のとおり)

74年前に当時のフランス外務大臣ロベルト・シューマンが提案した「経済協力による平和と統一」という構想は今日、これまでにないほど重要になってきている。欧州議会選挙の前にマックスプランクの研究者がEUシステムの成果と弱点を分析し、強く豊かな欧州の為のアイデアを概括する。

1950年5月9日、シューマンは次のように演説した。「基幹産業を統合し、フランス、ドイツ、その他の参加国を拘束する行政機関の設立により、この提案は、平和の維持を不可欠なものとする欧州の連合組織の最初の礎石となろう。」

欧州は現在でも様々な問題に直面している。欧州はどこへ行くのか?多様な分野のマックスプランク協会の研究者がこの国家連合の現状を分析する。

先ずは、マックスプランク社会研究所(ケルン)のマルティン・ヘプナーの見解:

【EUは不要なものをやめる必要がある】
EUが実際に行っていることは、条約が想定したものをはるかに超えている。国境を越えた問題が発生していないにもかかわらず、加盟国の問題にEUは介入しようとする。自主的な消防団の待機時間についてのEU指令がいくつあるか数えてほしい。欧州委員会と欧州裁判所による条約解釈の変更により、EU予算における債務負担権能の付与を実現したこともある。しかし、常にそうはいかない。条約を改正する場合、条約上の権限の基準が不安定であるが正当な理由によりEUが活動しているのであれば、EUの権能を拡大すべきである。同時に、EUが撤退すべきところも特定すべきである。そうすれば、EUはより理解しやすく、効率的で、批判もされないものとなるであろう。

次に、マックスプランク比較公法・国際法研究所(ハイデルベルグ)のディミトリ・シュピーカーの見解:

【欧州の条約を過小評価するな!】
昨今、EU条約の改革という言葉が聞かれるようになってきた。リスボン条約の成功により条約改革は長い間課題とならなかったが、東欧におけるEU拡大の話題とともにその声を聞くようになってきた。その際に言われるのが、一部の国の現状を憂い、民主主義、法の支配、それに人権というEU条約第2条をより強く守ることである。しかし条約の改正には全会一致が必要なので、「価値」に触れる改正は失敗するだろう。しかしながら既存の条約を過小評価してはいけない。ドイツ連邦オラフ・ショルツ首相はプラハでの演説で、「私たちの基本的価値を侵害することがあれば欧州委員会は訴訟をできるようにすべきである。」と述べたことを受け、欧州委員会はハンガリーに対し、共通の価値の侵害を理由に欧州司法裁判所に提訴した。

すなわち条約改正は現実的ではないが、既存の条約体系は一般に考えられているよりよほど頑健であり、その体系を創造的に活用していくことができるということである。

欧州の課題は次のようなものである。
・EUの行動力はどのようにして確保されるのか。
・民主主義の正統性はどのようにして推進できるのか。
・EUの拡大は何を意味するのか。
・繁栄を維持・拡大しながら、気候変動目標を達成するにはどうすればよいのか。
・研究における欧州の優位性をどう確保していくのか。

政治からの要求がいかに大きくても、EUが前提とする民主主義、法の支配、基本的権利の保護という価値観は協力のための基礎となるものである。何が欧州を作り上げているか、どう安全保障と繁栄を向上させていくか、そして一度解体された法治国家体制をどう再建するか、これらすべてが欧州研究である。

シューマンのアイデアが今日でも実現性があるのかどうかはまだわからない。2024年秋には新しい欧州委員会が発足し、新たな指針が打ち出される。妥協と政治的決定が行わる。それがEUであり、これまでの発展をもたらしてきた。

[DW編集局]